最近、AI関連の話で、よく耳にするようになったことがあります。
これまでAIを作ってきた会社が、自分たちのエンジニア(FDE)をお客様の最前線に送り込み、業務そのものを一緒に作り変え始めた、という動きです。AIが、いよいよ実装の現場まで入ってきました。世界中で、多くの人が同じ問いに向かって走り出しています。どう導入し、どこまで効率を上げられるか。
数字も、それを後押ししています。たとえばある海外の決済サービス企業では、AIによる効率化と自然減で、従業員数が約40%ほど減少しました。AIが、700人分の顧客対応をこなしているとも言われます。

こういった効率化は、今後も確実に進んでいくと思います。
ただ、ここにひとつ気にかかっていることがあります。効率を上げること「だけ」を目的にして、すべてをAIに任せていったとき、その先に何が残るのか、ということです。
私たちの身近なところで言うと
その一例として、例えば、スーパーマーケットを、思い浮かべてみてください。
スーパーは、もともと市場(いちば)が起源でした。モノを買いに行く場所であると同時に、店主と言葉を交わし、顔なじみができ、ふと知った人と出会う場所でもあった。そこには、棚に並ぶ商品という「見えるもの」と、人と人の交わりという「見えないもの」が、当たり前のように同居していました。
効率化を突き詰めるなかで、私たちの市場(いちば)は「レジに並ぶ店」になりました。そしていま、セルフレジによって、最後に人と触れる場所まで、静かに置き換わろうとしています。

手順的には、確かに速くなりました。でも、なんでしょう——少し、つまらなくなった気もする。そう感じたこと、ありませんか。
逆におもしろいのは、いま選ばれるお店を見てみると、むしろ肉や魚、総菜の売り場づくりに力を入れているところが多いことです。効率で削るのではなく、本来いちばが求める見えない要素、人が出会い、発見する場所に手をかけた店が、ちゃんと残っている。

こういった、見えないものを人が求めるのは、決して昔の話ではなく、推し活など、同じ場所に集まって誰かを一緒に応援する今の現象にも、グッズという見えるものと、一緒に過ごす満足という見えないものが両方あると考えられます。
同じ「課題解決」でも、どこに食いつくか
私はかつてカスタマーサクセスとして、お客様の現場に入り、課題を解決する仕事をしていました。その役割に、誇りを持っていました。
いま思うのは、同じ「課題を解決する」にしても、どこを最適化するかで、出来上がるものはまるで違う、ということです。効率に食いつけば、レジの行列を解く。けれども、そのまま進めると、行列の件と同様に、活気やコミュニケーションまでも、片付けてしまう。
効率という物差しが、測れないもの
効率という物差しは、とても便利です。けれど、見えるものしか測れません。だから、測れない「見えないもの」を「無駄」と取り違えて、真っ先に削ってしまう。
AIを単に効率化のためだけに適用しようとすると、この見えないものを、壊してしまうことがあります。
何が見えない価値なのかは、職場によって、お店によって違います。だから、ひとつの物差しで一律に効率化を進めると、構造的に、それを見落としてしまう。
それは、あなたの仕事の話かもしれない
これは、小売だけの話ではありません。
同じことが、いま、私たちの働く場所でも起きはじめています。しかも厄介なのは、消えていくものが、目に見えないことです。「効率化できる無駄」の顔をして、実は仕事の温度そのものだった——そんなものが、職場には、少なからずあります。

レジと違って、無くなった瞬間には、気づけません。気づくのは、たぶんずっとあとで、職場から何かの温度が消えたころです。
ちなみに、こうした効率化を先取りした企業のなかには、しばらくして方針を見直し始めたところもあります。AIで人員を減らしたあと、顧客の満足度が下がり、人間の担当者の採用を再開し始めた——という現実が報じられているのです。コストの軸だけで進めた結果、見えない価値の方が、あとから大きく欠けていたことに気づいた。これは特定企業の話というよりは、効率という物差しだけで判断したときに、誰の現場でも起こりうる現実だと思います。
良かれと思って、活気を壊す
良かれと思って入れたはずのものが、職場の活気を壊してしまう。私はこれを、改悪DXと呼んでみたいと思います。
誰かが悪いわけでは、ありません。むしろ、よくしようとしている。ただ、「なぜ、そうなっているのか」を見ないまま、変えてしまっただけなのだと思います。
だから——変えるな、ということではありません。まず、なぜそうなっているのかを知る。そのうえで、職場を大切に扱う。目に見えない関係性を理解すること。その職場が大切にしてきたものは、働く人どうしの関係にも、お客様との関係にも、宿っています。
立ち止まって
効率を最大化するための、AIなのか。それとも、関係を最大化するための、AIなのか。
あなたの職場が、本当に大切にしてきたものは、何でしょうか。
それを壊さずに、デジタルで育て直すことは、できるでしょうか。
関連ブログ
今回の記事と同じく「DXが進む中で、私たちが失っているもの」について、別の角度から書いた記事もあります。
また、「決める側」と「作る側」という視点から、AIと仕事の関係を書いた記事もあります。今回が「組織が効率化するとき、何を見落とすか」だとすれば、あちらは「個人が、どこに立つか」。地続きの話です。
👉 ワークスロップとは何か — AIで時短したはずが、仕事が増えていく現象
参考文献
- Klarna社(Buy Now Pay Later型の決済サービス企業)の従業員数変化:約5,500人(2022年12月)→ 約3,400人(2024年12月)、AIアシスタントが約700人分のカスタマーサービスを担当。出典:CNBC「Klarna CEO says AI helped company shrink workforce by 40%」(2025年5月)、OpenAI「Klarna’s AI assistant does the work of 700 full-time agents」(2024年)
- Klarna社の方針見直しの動き:人間のカスタマーサービス担当者の再採用へ。出典:Fast Company「Klarna tried to replace its workforce with AI」(2026年1月)
- 2025年にAIを直接の理由とした米国の人員削減 約54,836件(Amazon、Microsoftなど)。出典:Challenger, Gray & Christmas社「2025年雇用削減発表報告」(2025年12月)
- AI企業による実装部隊(FDE: Forward Deployed Engineer)の設立——OpenAI Deployment Company、Anthropicのサービス会社など。出典:MarketScreener「Beyond Models: OpenAI and Anthropic Pivot Towards Implementation」(2026年)
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