Proof of Concept(概念実証)
SawaLeafが実証してきた、AIとの分業のカタチ

PoC(ピーオーシー、Proof of Concept・概念実証)は、新しい仕組みを小さく作って試し、事業に取り込めるかを判断するための検証プロセスです。

多くの現場で、PoCは「試してみた、で止まった」で終わっています。動くものはできる。しかし、日々の運用に組み込まれる前に、熱量が続かなくなる。SawaLeafでは、生成AIとMCP(Model Context Protocol)を軸に、日常の業務運用まで落ち着いた7つの仕組みを内製で立ち上げてきました。このページは、その記録です。

運用まで届かせるために最初に必要なのは、作り方の巧拙ではなく、作り始める前に整えた開発基盤と、AIとの向き合い方——この2つでした。両者が揃うと、AIに任せる範囲を広げても、担当者は「いま自分たちがどの方向に、何をやっているか」を見失いません。

「AI活用が進むほど、現場の実感から離れていくのでは?」——その懸念への答えも、ここにあります。

最初に整えたこと

アプリを作り始める前に、開発基盤を先に整えていました。SawaLeafの現在の開発環境は、以下の構成です。

用途構成
開発サーバー自宅LAN内・Ubuntu Server 24.04
AIとの対話環境Claude Desktop(方向づけ)+ Claude Code(実装)
MCP基盤 ※3系統: Amplifier(ウェブ運用)/ Home(自宅アプリ)/ Core(横断ハブ)
自動化基盤n8n(業務ワークフローの自動化)
ルール管理SAWALEAF-RULES.md を単一の正として運用
リポジトリ管理GitHubで一元化(2025年11月〜、内製)

※ MCP(Model Context Protocol): 2024年11月にAnthropicが公開したオープン標準。2025年3月にOpenAI、続いてGoogle・Microsoftが採用し、2025年12月にLinux Foundationへ寄贈されて業界共通インフラとなりました。

SawaLeafの開発基盤:MCP基盤(Amplifier/Home/Core)を軸に、n8n・GitHub・SAWALEAF-RULES.md、AI対話環境、開発サーバーの階層構造

始まりは、大きな改革ではなく、日常の小さな関心からでした。「Claudeに毎回、資料を添付するのが面倒だ」——2025年秋、その不便を解消するために、自宅LANにMCPサーバーの原型を立てるところから、SawaLeafの開発基盤は動き始めています。

👉 この開発基盤を、実際にどう組み立てていったのか。開発者ではない立場から、AIに相談しながら環境を整えていった過程は、シリーズ第1回「最初に整えたこと — SawaLeafの開発基盤の記録」に書いています。

この基盤の上で、7つのエージェントが順に生まれてきました。次に、その最初の物語を見ていきます。

諦めていたことから、始める

「ちょっとした日常のストレスや不満を、こだわりを入れた今風の解決策へ、楽しみながら昇華させる。使ったことのないテクノロジーでも、生成AIに根掘り葉掘り聞いていけば、丁寧に解説してもらえる。試してみる価値があるかは、それで分かる」

SawaLeafに並ぶ7つの仕組みは、経営会議から生まれたわけではありません。始まりはいつも、日々の中で「これは仕方ない」と諦めていた不便でした。それぞれの領域を担当し、日々そこを見張り、必要なときに知らせたり応対したりする仕組み——SawaLeafでは、これらを「エージェント」と呼んでいます。

代表例が 番頭 です。もともとは、太陽光発電の実績を可視化する自宅用ダッシュボードを何度も作り直していました。技術的にはきれいに動くものが出来上がった。しかし、見なくなった——数字だけでは、十分にイメージができないからです。「作ったが誰も見ない」というBIツール導入企業でよくある現象を、まず自分で経験したことになります。

そこで発想を反転しました。見せるのではなく、AIに解釈させて語らせる。ロボット声ではないグレードの声で、朝、必要なことが自然に耳に届く。数字を見に行かなくても状況が分かる形——これが番頭の輪郭になりました。

Insight Radar・番頭の設計思想:複雑なダッシュボードを見せるのではなく、AIに解釈させて自然な音声・テキストで毎朝報告する仕組み

同じ「担当領域を見張って、意味に翻訳して届ける」構造で、他のエージェントも動いています。

  • クラ番+アジ番: 冷蔵庫の在庫把握と、そこからの献立提案
  • ハンナ: 業務電話のAI受付
  • Insight Radar: 自社オウンドメディアの状況を毎日観測
  • 太陽光: 発電・省エネ・電気利用のイメージを番頭経由で

どれも、既製ツールを入れる文脈からではなく、日常の中で「もう仕方ない」と受け入れていた場所が起点になっています。そしてこれは、家庭のDXの話であると同時に、企業のDXの話でもあります。

結局、突き詰めてみると、企業の中の業務でも、個人の業務や生活でも、DXは同じことが言えるんです。AIを使う最大のメリットは、今まで忙しすぎて諦めていたことを、実現できるようにすること。それが本質だと思っています。

では、この7つのエージェントは、なぜ運用まで届かせられたのか。次のセクションで、その仕組みを見ていきます。

見失わない、AIとの分業

前のセクションで見た7つのエージェントは、すべて同じ分業の型で作られています。その形を見ていきます。

AIと組む前提

まず、AIと仕事をする上で欠かせない前提があります。曖昧さを持ち込まないこと、感情を挟まないこと

AIとの相談は、部下との会話と似ています。「なんとなくこんな感じで」といった曖昧な指示や、その場の感情に引きずられた依頼は、AIから引き出せる答えの質を大きく下げます。逆に、「何をしたいのか」「なぜそれが必要なのか」「どこまでを求めるのか」を明確に伝えられれば、AIは的確に応じてくれます。これは組織で部下や同僚と関わるのと同じ原則で、AIに特別なテクニックが要るわけではなく、人と協働するときの当たり前の作法をそのまま持ち込むだけです。

三段構造 — 意志・拡張脳・ツール

その前提の上で、SawaLeafは以下の三段構造でAIと働いています。

AI分業の三段構造:意志(Human)→ 拡張脳(Claude Desktop)→ ツール(Claude Code)を、マークダウン指示書でつなぐ開発の型
  • 意志(人間): 何をしたいのか、なぜそれが必要なのか。ここは常に人間が持ち、委任しません
  • 拡張脳(Claude Desktop): 実現したいことの相談から始まり、テクニカルな知識を整理し、意思決定者が理解できる形に落とし、構成をまとめ、専門家に渡す仕様書を作るまでを担う。組織で言えばCTO・ディレクター役
  • ツール(Claude Code): 仕様書を受け取り、コードを書き、コミットし、デプロイまで担当する実装の専門家

三段の間に流れるのは、指示書(マークダウンファイル)です。ファイルで渡すから、後から振り返れる。方針や判断が絡む瞬間は、必ず拡張脳に戻ります。同じAIでも、拡張脳には相談し、ツールには相談しない——ツールに意志を預けないための、意図的な非対称性です。境目は「翻訳が要るか要らないか」——この一線が原則を守っています。

4つの視点で整理する

この分業のしかたは、4つの視点で整理できます。

  • 翻訳の定式化: 拡張脳の仕事は、意志を「実装可能な仕様書」に変換すること
  • 非対称性: 同じAIでも、拡張脳には相談し、ツールには相談しない
  • 組織適用: 増員するメンバーが同じくペアを持てば、そのまま組織で回せる
  • マルチプロジェクトの器: 拡張脳は文脈ごとに分ける(開発 / 会社運営 / 資産管理 / SEO・コンテンツ)、ツールは共通で使う

なお、この三段構造は SawaLeaf独自の工夫ではなく、Anthropic公式が推奨する使い方(Explore first, then plan, then code)のB2B文脈への実装例 です。

たどり着いた原則

こうして分業を回すうちに、ひとつの原則が見えてきました。

重要なのは、常に自分がどんな方向に何をやっているか理解できていること。ブラックボックス化しないこと。

ツールに意志を預けない非対称性:拡張脳には相談し、ツールには相談しない。翻訳の境界線を挟んだ役割分担の図

これは最初から設計思想として掲げたものではなく、分業を回してきた結果、事後的に気づいた原則です。

なぜブラックボックスにしないことが重要なのか。理由のひとつは、運用が始まったあとのトラブルシューティングです。事後に問題が起きたとき、仕組みや構成が分かっていれば、どこから調べればよいかが見え、原因の切り分けと修正の手が打てる。逆に、AIに丸ごと任せて中身を把握していなければ、問題が起きた瞬間から対応の手がかりを失います。

AIに任せる範囲を広げれば広げるほど、担当者は方向を掌握しやすくなる——SawaLeafが実証してきた分業のしかたは、そこに向かっています。

では、この分業の型で、実際に何が実現されたのか。次のセクションで、実物を見ていきます。

PoCがカタチになる

前のセクションの分業構造は、動くものを作るための型でした。ここでは、その型で何を実現したかを見ていきます。PoCとは、諦めていた不便に対して、実現したものを日々動かせるカタチまで持っていくこと。実物として立ち上がって、初めてPoCと呼べます。

代表例が ハンナ ——業務電話のAI受付です。

出発点は、対外的な連絡窓口となる電話番号が必要になったこと。ただし、番号を対外的に載せた瞬間、営業電話は必ず来ます。求めていたのは「電話に出てくれる誰か」ではなく、「営業電話をフィルターして、本物の問い合わせだけ拾ってくれる仕組み」 でした。既存の選択肢(留守電、電話代行、IVR)はどれも合わず、SaaS(IVRyなどのサービス)も比較検討したうえで、自前構築を選びました。この番号周りのシステム自体が、SawaLeafが提供するDXコンサルティングの実証実験になるからです。

技術構成は、Twilio Conversation Relay を軸に、Gemini で応答生成、Google Cloud Run でホスティング、Microsoft Teams のアダプティブカードで通知——業務電話の信頼性を、自宅のインターネット・電源から切り離すためのクラウド構成です。

ハンナ(業務電話AI受付)の技術構成:外部電話 → Twilio Conversation Relay → Gemini(応答生成)→ Google Cloud Run → Teams Adaptive Card の流れ

ちょっとした工夫として、ハンナが挨拶を終えた直後に 「ピッ」という短い音 を入れています。留守電の録音開始音と同じで、「ここから話していい」の合図です。AI相手だと相手が話し出すタイミングに迷いがちですが、この一音があるだけで、自然に話し始められます。細部の配慮が、体験の質を作る の実例です。

こうして、ハンナは事業の代表電話として本番稼働に入りました。24時間365日、増員ゼロで、不在のない会社になっています。

前のセクションで紹介したクラ番+アジ番、電力の見立て、Insight Radarも、それぞれの領域で「実現したもの」を持っています。どのエージェントも、既製ツールを入れる文脈からではなく、日常の中で諦めていた場所が起点になっています。

では、これら実現したものが、日々の中でどう定着しているのか。運用まで落ち着いた姿を、次のセクションで見ていきます。

使い続けられるエージェント

前のセクションで見た「実現したもの」は、動き始めたところがゴールではありません。日々の中で使われ続け、動き続けて、初めて運用と呼べます。ここでは、7つのエージェントがどう運用に落ち着いているか、そしてそれを支えている裏側の仕組みを見ていきます。

代表例が Insight Radar です。GA4やSearch Consoleといった専門家向けの分析ツールは、そのままでは入り口しか使えない状態でした。数字はそこにあるのに、事業判断に繋がらない。そこからAIとの相談を重ね、必要なデータの取り方と組み合わせ方を整理し、アプリ化したのが Insight Radar です。今では毎朝、週次・日次・地域別のデータが事前に整った状態で開けます。各記事のメモ機能により、一度気づいたことが翌週も生きる——データは「たまに見る画面」から「判断の起点」に変わりました。

番頭は毎朝の「本日のアナウンス」を配信し続け、クラ番+アジ番は日々の料理の動線に組み込まれ、ハンナは24時間365日、業務電話を代わりに受け続けています。どのエージェントも、動き始めた瞬間から改善のフェーズに入り、少しずつ育っています。

これを裏で支えているのが、3つの仕組みです。n8nによるエラー監視で問題を「起きた瞬間」に把握し、SAWALEAF-RULES.mdへの失敗パターンの蓄積で同じ失敗を繰り返さない構造を作り、そして 月次棚卸し ——といっても会議を開くわけではなく、日々のAIとの会話の中で「そろそろ棚卸しの時期じゃないですか?」とAIから話しかけてくる、その感覚で回しています。

運用を途切れさせない継続のエンジン:n8nによるエラー監視、SAWALEAF-RULES.mdへの失敗パターン蓄積、AI起点の月次棚卸しの無限ループ

以上を、数字でまとめます。

項目数値
開発期間2025年11月
開発・運用人数1人
稼働中のWebアプリ7本(番シリーズ)
自作MCPサーバー3本(Amplifier / Home / Core)
外部委託・外注0件

一人と、AIとの分業だけで、この規模のシステムを2025年11月から構築・運用してきました。これは「一人だからできた特殊なやり方」ではなく、分業の型・業務の流れをAIと人でどう繋ぐか・ルール管理の仕方を持つ組織運営として設計されています。同じ型を、増員するメンバーに持たせれば、そのまま組織で回せる形——それがSawaLeafのPoCが実証してきた運用のカタチです。

試してきたPoCの一覧

7本が日常運用に届いたPoCですが、ここに至るまでに試したもの、いま試作段階にあるものも含めると、以下のような広がりがあります。

これだけ試せた理由の一つに、いつでも、どこからでも呼び出せる基盤があります。自宅の統合ハブ(Home Assistant)とVPN(Tailscale)を通すことで、iPhone・タブレット・外出先のPCから、LAN内のサービスと同じ感覚で触れる。動くものを作った瞬間から、指先の距離で使い続けられる——これが試行を止めない土台になっています。

思考のキッカケ作ってみたもの状態
太陽光のダッシュボードを何度作っても、結局見なくなる。数字が並んでも判断につながらない発電量を週・月・年で比較し、朝の音声で状況を解説してくれる。数字を見に行く必要がなくなった稼働中
毎日、冷蔵庫の中身が把握できず、中を開けて「何を作ろう」から始まる。材料確認・献立検討・調理順番の流れがスムースじゃない冷蔵庫の内容把握から献立、調理の順序までを一本の流れに提案稼働中
冬寝ている間、部屋が乾燥して喉をやられる。乾燥に自分では気づけない部屋の湿度をモニタリングし、閾値を下回ると音声アラートで教えてくれる稼働中
駐車場に来客や配達が来ても、家の中で気づけない。チャイムを押す前に気づきたい家の防犯カメラで人・車を検知し、AI音声で知らせてくれる(Frigateベース)稼働中
夕食どきに毎回BGMを選ぶのが手間時間帯と場面に合わせて適切な音楽を自動選曲するテスト中
ポータブル電源を、太陽光発電の良い時に充電したい天気予報と気温を確認し、リモートコンセントを自動でオンにする仕組み試作中
気候に合った庭の手入れを、その都度判断できない。霜・凍結・植物ごとのタイミングが読めない気象データ・週次天候・植物別カレンダーを一枚に統合したガーデニング支援稼働中
夜間に野生動物が来るのが心配、トレイルカメラへの接続が複雑トレイルカメラの映像を自動取得し、AIで動物を検出。OneDrive共有でどこからでも確認稼働中
ブログの読まれ方をGoogle Analyticsで追っても、記事ごとの手応えが掴めず、事業判断に繋げられない記事ごとの閲覧数・読了深度・地域分布・流入チャネル・平均滞在時間を毎朝まとめて確認し、記事別のメモも重ねられる稼働中
事業用の電話番号を載せたいが、営業電話に振り回されるのは避けたい。既存の留守電・電話代行・IVRのどれもフィルターとして機能しない営業電話を弾き、本物の問い合わせだけTeamsに通知する24時間365日のAI受付稼働中

ここでご紹介してきたのは、SawaLeafが自社で実証してきた、生成AIを活用したDXの一例です。特別なものではなく、業界標準となりつつある使い方を、実際の職場の悩みを棚卸ししてDXへ落とし込んだ進め方——それを一人と、AIとの分業で回してきた過程を、そのままお伝えしています。

いま、あなたの組織で導入されているAIは、業務を軽くしていますか、それとも、結果的に手間が増えていませんか? AIやDXという名目でツールを重ねた結果、かえって現場の負担が増える——そのような状態は、多くの現場で見られます。

意味のあるDXは、新しいツールを積み上げることでは生まれません。既存の業務を棚卸しし、諦めていた不便を見つけて、そこにAIを組み込む——SawaLeafが実証してきたのは、この順序で進めるDXでした。

本当のDXは、新しいツールを買うことではない。もつれた業務を棚卸しし、諦めていた不便にAIを組み込むことで、業務が整流化される

SawaLeafでは、このページで見てきたAIとの分業の型・業務の流れをAIと人でどう繋ぐか・ルール管理の仕方を、そのまま横展開できるパッケージとして提供しているわけではありません。ただ、ここで実証してきた考え方については、対話の中でお話しできます。「自社でも同じことを回してみたい」「うちの業務要件だと、どこから始められるか」——そういう問いから、一緒に考えることはできます。

👉 まずは、30分の無料相談 から始めていただくことができます。相談の中で、より深くお話しする必要があれば、有料のCompass(コンサルティング)へお進みいただくことも可能です。