ここ半年ちょっとのあいだに、自宅で使うためのアプリをいくつか作ってきました。天気や今日の予定を朝に語ってくれるもの、冷蔵庫の在庫を管理するもの、夜に庭にやってきた動物を教えてくれるもの、ブログのアクセス状況を整理するもの、24時間のAI電話受付。前回まで、それを4回に分けて書いてきました。
どれも、「作るまで」の話が中心でした。
でも実際に運用してみると当たり前ですが、作ってからのほうがはるかに時間が長いんです。数週間から半年と使っていくと、当初の想定と違う使われ方をするものが出てきます。逆に、思っていた以上に頼りにするようになったものもある。壊れているわけではないのに、いつのまにか使わなくなっているものも出てきます。
今回は、その「作ってからの運用」の話をしてみたいと思います。動かし続けてみて、何を直したのか。何を直さずに済んだのか。そして、続いているものには、何か共通点があるのか。
シリーズの全体像は、Proof of Conceptページ にまとめています。

朝の語りは、届け方が三つに分かれた
第2回で書いた朝のブリーフィングは、今も毎朝流れています。話す内容はテーマによって少し増えていますが、仕組みそのものは特に変えていません。
ただ、情報の発信方法(伝え方)については、呼び出し機能を追加しました。
きっかけは、毎日の起きる時間が季節で一定でないことが理由でした。夏や冬の朝は、季節でずいぶん明るくなる時刻に差があります。これに加えて、夫婦の仕事開始時間が変わったりすると、決まった時刻に流れるだけでは、合わない日がちょいちょい出てくるのです。
そこで、AmazonのAlexaから音声で呼び出せるようにしてみました。「アレクサ、サワリーフを開いて」と言えば、その場でブリーフィングを始めてくれます。
これは、実際に作ってみると、想定していた使い方と、実際に使う場面が、ちょっと違ったんです。
作ったときは、「起きる時間が早い日に、こちらから呼び出す」と考えていました。ところが実際に多いのは、朝バタバタしていて集中して聞けなかったところを、昼ごはんのときに聞き直す使い方でした。呼び出す使い方が、聞き逃した場合の受け皿になっていたのです。
更にもうひとつ発見したのが、情報の単位によって、向いている届け方があるということです。
例えば、太陽光発電の詳細を見たいときは、ブラウザでウェブ画面を確認する方が良いです。グラフなども見れて、前週と比較もひとめで分かる。けれども、全体像を短くつかみたいときは、朝の語りがちょうどいい。それなら、天気も家族の予定も発電も、ひとつの流れで入ってくる。そして、聞き逃したらAlexaで呼び出せばいい。

いまは、この3つの呼び出し方で落ち着いています。
他に続けられている理由が、もうひとつあります。それは、必要ない日は、すぐ止められることです。鳴り始めて、「今日はいいや」と思ったら止めてしまう。人に頼んでいるわけでもないので、特に気まずさもありません。だから続けられているのかなと思います。
撮るより、入力のほうが早かった
冷蔵庫の中身を把握する「クラ番」も、当初と大きく変わったところがあります。
作った当初のお気に入りは、レシート撮影の機能でした。買い物から帰って、レシートをスマホで撮る。あとはAIが読み取って、在庫に反映してくれる。撮るだけで済むはずだったんです。
ところが、使っているうちに、だんだんおっくうになっていきました。
解析に70秒から80秒かかります。その間、待たされます。さらに読み取りが終わったら、OCRによる文字がちゃんと認識できているかを確認します。違っていれば修正します。壊れているわけではないんですよ。ただ、この一連の流れが、地味に重い。
もうひとつ、想定外のこともありました。最近、スーパー以外で野菜を買うことが増えたんです。道の駅とか、地元の直売所とか。そこのレシートを見てみたら、なんと野菜の名前ではなく、生産者の名前や番号だけが並んでいたりする。読み取り精度をどれだけ上げたって、野菜の名前がないものは入力できないわけです。
そこで、テキストで直接入力できる欄を足しました。
作りはごく単純で、「トマト、一袋」と打って、改行して、次の品を打つ。数行まとめて一回で送れるようにしただけです。iPadでもパソコンでも、これがいちばん楽でした。「トマト(大)×3」なんて丁寧に整える必要はなくて、音声入力なども併用すれば、口にするそのままの言い方で打ち込めます。整理して保存するのはAIがやってくれます。

いま振り返ると、最初の設計は、機械が読みやすい形に人がデータを渡していたんですよね。レシート画像を渡せば、あとはOCRとAIで構造化してくれる。でも実際に楽だったのは、自分がふだん使う話し方で入力して整理できることの方でした。
だからと言ってレシート撮影機能は、なくしていません。買い物の量が多い日は、いまでも使っています。数十品目を打つのはさすがに大変ですから。ただ、日常のちょっとした買い物では、テキスト入力のほうを圧倒的に便利に使うようになりました。
他にも後から使う様になった機能もあります。例えば、レシピの取り込みと書き出しです。外のレシピサイトからテキストを貼り付けると、AIが整理して保存してくれる。しかも、試行錯誤して作ったレシピを定番にしたり、外から持ってきた二人分のレシピを一人分に自動で計算して保存などできる。これは作った当初は考えていなかった機能で、使っているうちに「これが必要」と感じて追加しました。
こんな感じで同じアプリでも、使われなくなった機能と、あとから追加された機能があります。アプリの運用とは、たぶんこういうことなんだと感じました。
毎日見に行かなくて済むようになった
庭にやってくる野生動物のことは、奥さんがずっと気にしていました。夜のあいだに、キツネやタヌキなどが来て、排泄物を残していくときがあります。せっかく育てている花や野菜が心配です。
だから奥さんは毎朝、庭に仕込んだトレイルカメラにスマホで接続して、庭の動画を確認していました。何も来ていない日も、確認するまで分からないからです。
これを、自動で読み込んで分析、朝のブリーフィングに載せるようにしました。
トレイルカメラは、動きがあったときだけ自動で撮影します。それを早朝に自宅のサーバーがBluetoothと無線LANを使って映像を取得、朝のブリーフィングまでにAIが分析を終える仕組みです。ブリーフィングでは「昨夜、庭に来訪あり」とか「昨夜は静かでした」とか、そんな感じで報告されます。
動物の種類までを当てる精度は、正直まだ高くありません。夜間だとサイズを把握できずタヌキをクマといった誤認なども多いです。今後、他のやり方で精度を上げたいと考えています。
でも、それでいて実は困っていないんです。知りたいのは、種類じゃなくて「来たかどうか」だったからです。もし、来ていれば、どっちみち奥さんが自分で動画を見るからなんです。詳細はそこで確認できる。来ていなければ、それで終わりにできる。
種類を正確に当てることをゴールにしていたら、この仕組みはいつまでも完成していなかったと思います。必要な精度は、目的が決めてくれる——というのは、動かしてみて分かったことでした。
変えなかったものに、変化が映った
ブログのアクセス解析用に作った「Insight Radar」は、この4つの中でいちばん修正が少なかったアプリです。作ってから、ほぼ何も変えていません。
これを作った理由は、単純で流行りに流されたくなかったからでした。執筆したブログをnoteや既存のメディアには載せずにオウンドメディアとして、配置することにしたんです。そして、自分の場所に置くということは、どんな人が読んでいるのかも自分で把握する必要があると考えたのです。
どこから、どんな言葉で検索して辿り着いたのか。どの地域から読まれているのか。記事ごとに、どれくらい読み進められたのか。マーケティング的な視点で、日々のアクセスを眺めています。
作った仕組みは変えていない。でも、そこに日々映るものは、少しずつ変わってきました。
時間が経つにつれ流入経路が、広告やSNSからの一時的な波ではなく、検索経由や直接的な訪問に変わってきた。平均の滞在時間が、じわじわ伸びてきた。よく読まれる記事の顔ぶれが安定して見えてきた。全国からアクセスが来ていることも分かる。
オウンドメディアで書き続けるのって、正直、しんどい時期もあります。誰に届いているのか分からなくなる瞬間もある。そういうときに、Insight Radarは静かに数字を映してくれる。変わらない道具が、変化を映し出してくれる場所として、毎朝開いています。
続いているものに、共通していたこと

これらのアプリを並べてみて、あらためて気づいたことがあります。
続いているものには、どこか似た形があるのです。
ひとつは、使わない機能があっても捨てずに、機能を足して使っていること。
レシート撮影をやめて、テキスト入力に切り替えたわけではないんです。両方残っている。朝の定時配信をやめて、Alexa呼び出しに変えたわけでもない。両方生きていて、場面によって使い分けている。
どちらか一方に寄せようとすると、寄せた先が合わない日に、手が止まってしまうんですよね。片方だと思って作ったものが、実は入り口を増やす「使い分け」が正解だった、というパターンが多かった気がします。
ふたつ目は、必要な精度を、先に決めていること。
先のトレイルカメラの話がいちばん分かりやすいのですが、動物の種類は当たらなくてもいい、と決めたから完成したんです。もちろん精度を上げることをゴールにしたら、コスパが悪くなるか、いまも完成しないままだったと思います。
「精度は高いに越したことはない」って、すぐ考えてしまいがちですよね。でも本当のところ、必要な目的を明確にできれば、必要な精度もおのずと決まります。そこを先にしっかりさせておくと、作り込みすぎずに、前に進めます。
三つ目は、押しつけ過ぎない仕組みになっていること。
朝のブリーフィングは、聞きたくなければいつでも止められます。テキスト入力が面倒な日は、レシートを撮ればいい。トレイルカメラのレポートも、詳しく見たい日だけ動画を開けばいい。
やらない自由があるから、押し付けがましくならない。毎朝流れてくるものが鬱陶しくならないのも、たぶんここです。
どれも、大きな作り直しではないんですよね。入力欄をひとつ足す。呼び出し口をひとつ増やす。半日あればできるような、小さな調整ばかりです。
逆に言うと、直すのに大がかりな作業が必要になった時点で、たぶん止めてしまいます。面倒だから後回しにして、そのうち使わなくなる。使わなくなったことにも気づかなくなる。
使われなくなる理由は、いつも小さい

クラ番のレシート撮影を、あまり使わなくなったとき、機能自体に問題はありませんでした。
ただ、70秒待って、確認してから文字の修正をする。これが少しずつ鬱陶しくなっていきました。
こういう鬱陶しさって、誰も報告しないんですよね。「使いにくいです」と誰かが言ってくるわけでもない。ただ、開かなくなっていく。自分ひとりの環境でも起きるくらいですから、組織の中では、もっと分かりにくい形で起きているんじゃないかと思います。
Microsoft時代に、「せっかく入れたのに、使われないんです」という相談を、それこそ何度も受けてきました。当時は「使ってもらう仕組み」——研修とか、通知とか、成果指標とか——のほうを一緒に考えることが多かったのですが、いま思うと、入り口のひと手間を減らすほうが、たぶん先だったと思うのです。
70秒の待ち時間、ひと手間の確認、ちょっとした入力の面倒さ。そういうものが、じわじわ積もって、いつのまにか使われなくなる。ツールが定着しない理由って、大きな機能不足であることは、実はそんなに多くないのかもしれません。
もうひとつ、思うことがあります。
AIで何かを作ってみるのが、いま、ちょっとしたブームになっています。「AIに作ってもらったら、動くものができた」——これはこれで、楽しい体験です。ただ、作った楽しさで終わってしまうケースも、少なくない気がします。動くけれど、開かなくなる。当初は毎日開いていたのに、いつのまにか触らなくなっている。
作るときの楽しさと、使い続けるときの心地よさは、別物なんですよね。作った本人ですら開かなくなるものを、他人に使ってもらえるはずがありません。「使い続けたくなる何か」を、作るのと同じくらい大切に設計する。ここが、たぶん、PoCが「実証」で終わるか、日常になるかの分かれ目なんじゃないかと思います。
定着って、ただ習慣にすることだけじゃない

ここまで書いてきて、はっきりしてきたことがあります。
定着というのは、ただツールを使うことを習慣づけることだけじゃない、ということです。
使いにくいと感じたものは、どうやっても鬱陶しくなります。それを、ルールや通知で縛っても、続かない。
続くのは、「これが好きだな」と思える点が、どこかにあるときなんですよね。
年配の方がLINEを使えるようになるのは、たぶん、操作が簡単だからじゃないんです。孫と話したい。娘の子どもの写真が見たい。その動機が先にあって、あとからツールが入ってくる。
自分の場合も、振り返ってみると、そうでした。
朝のブリーフィングは、気に入った声で必要な情報を語りかけてくれる。クラ番は、美味しいレシピを作るのに必要な冷蔵庫の食材を覚えていてくれる。夜のあいだに、庭に来た動物のレポートが仕上がっている。Insight Radarは、書き続けることを日々応援してくれている。
並べてみて気づいたのですが、どれも「何分短縮できた」という語り方をしていないんですよね。「覚えていてくれる」「応援してくれる」——なんだか、相手がいるような言い方になっている。
これはたぶん、偶然じゃありません。効率のために始めたことじゃなかったから、ここ何カ月も続いたんだと思うんです。太陽光発電の数字が気になって、冷蔵庫の中身が分からなくて、庭の動物が気になった。ぜんぶ、自分が面白がれる題材でした。仕事の効率化の視点で入っていたら、たぶん、途中でやめていたと思います。
AIに相談しながら、自分ひとりで会社を運営していく。そういう世界が、実際に成り立つところまで来ています。ただ、それを支えていたのは、高度な技術というより、「これが好きだな」を毎日少しずつ足していく、あの感覚だったのかもしれません。
仕事に、楽しさを埋め込む

DXの現場で向き合う仕事が、ただ重いだけのものになっている、という光景を、これまで何度も見てきました。
やらなければいけないこと。決められた手順。報告のための入力。そこに、自分の興味や面白さが入る余地がないと、ツールがどれだけ整っていても、使い手の心は動きません。
そのなかに、ちゃんと自分の楽しさを埋め込められる。
これは精神論のようで、実は極めて具体的な話なんじゃないかと思っています。
覚えていてくれる、と感じる仕組み。応援してくれる、と感じる場所。そういう関わり方が設計されているかどうかが、数カ月動かしてみて、いちばん効いていた気がします。
このシリーズは、今回で完結です。基盤を整え、朝のブリーフィングを作り、AIの役割を分け、電話を組み直し、そして半年動かしてきた記録を、5回に分けて書いてきました。
シリーズ全体の入り口は、Proof of Conceptページ にあります。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

