数字はダッシュボードで見られる状態にあったのに、なぜ、朝、声で語ってもらう仕組みまで作ることになったのか。その経緯です。この転換が、SawaLeafのエージェント設計のきっかけになりました。
PoCの全体像は、こちらのページにまとめています。シリーズ第1回では、アプリを作り始める前に整えていた開発基盤の話を書きました。この記事では、その基盤の上で最初に立ち上がったエージェント——「番頭」ができるまでを書いてみたいと思います。
ダッシュボードを整えるほど、見なくなった
当初、番頭の仕組みが生まれる前、私は太陽光発電の実績データを可視化するダッシュボードを作っていました。
きっかけは、単純な不便さから、太陽光発電が、プラスマイナスいくらなのか見えていなかったのです。買電(電力会社から買った分)と売電(自宅で発電して売った分)が別々に明細が出ていて、しかも昨日の実績が翌日メールで届く仕組みでした。現状把握が、思った以上に困難だったのです。
最初はメールからデータを引き出してグラフ化するところから始め、やがて電力会社のサイトから直接データを取れるようにしました。買電と売電を組み合わせて、正確なグラフや表を表示できるようにする。バージョンを重ねながら、これが一つのウェブアプリの形になっていきました。
出来上がったウェブアプリは、当初はキッチンの Amazon Echo Show に固定表示させたかったのですが、当時は使いやすい現実的な方法が見つからず、代わりに Home Assistant(家中の家電やスマートデバイスを一つの画面で管理できるオープンソースのプラットフォーム。以下、HA)のタブとして組み込む形にしました。HAを選んだ理由は、もともと Alexa 経由で使っていた SwitchBot などのデバイスを一元管理でき、iPhoneやiPadからも専用アプリでアクセスしやすく、外部のウェブアプリもタブとして自然に組み込めるからです。
HAにタブが並び、ダッシュボードは整いました。ところが——精度が上がるほど、毎日見に行かなくなっていく。この感覚に、途中で気づき始めたのです。
これは、BIツールを導入した多くの企業で日常的に起きている現象と同じでした。「作ったが誰も見ない」を、自分の家で先取りしてしまった——そう気づいた時、この構造そのものを、他人事として片づけられないと感じるようになりました。
Netflix で見た、大統領の朝
そんな頃、たまたま見ていた Netflix のドラマで、大統領へ毎朝ブリーフィングをする補佐官のシーンがありました。
その光景を見て、ふと、「ウチもこれ、家でできないかな」と考えたのです。
執事や機長のような、落ち着いた声の誰かが、朝、家の状況を解説してくれる。数字はダッシュボードを見に行くものではなく、朝、耳に届くものにする——どうです、ちょっと気持ちが上がりませんか? 自分専用の落ち着いた声で毎朝解説してくれたら、一日が始めやすくなりそうじゃないですか?
これまで作っていたのは、画面でした。ダッシュボード=見に行くもの、です。それを捨てるのではなく、朝のブリーフィングを聞くという届き方を、もう一段、分かりやすく表現したい——そう感じたのが、番頭の起点でした。

集めて、解釈させて、声にする
そこからは、Claude Desktop に相談しながら、仕組みを組み立てていきました。
流れはこうです。
- ① データを集める:MCP経由で、昨日一日分のデータを各所から取り込みます。太陽光発電の実績、天気予報、家族のカレンダー、株式市況、SwitchBot の温湿度など
- ② 一箇所に整理する:集めたデータを「SawaLeaf Times」という自作の新聞スタイルのアプリに集約します。ここが番頭のデータハブになります
- ③ AIに解釈させる:SawaLeaf Times の内容を Gemini API に渡し、季節との比較や、注意すべきポイントを含めた解説文を書かせます
- ④ 声にする:解説文を Google の TTS(文字を音声に変換する技術)で音声ファイルに変換します
- ⑤ 届ける:指定時刻になると n8n が Sonos(自宅のスマートスピーカー)で自動再生。HAのボタンから即時再生もできるし、最近では Alexa にカスタムスキルを追加して、音声で呼び出す形にもなりました

特に気にしたのは、声です。
TTS の選択肢はいくつかありますが、Google の TTS を選びました。理由は、表現の幅が広く、日本語で自然に話せて、落ち着いた男性の語り口が作れて、ニュアンスの指定もできるからです。執事や機長のトーンを再現するには、この表現力の広さが必要でした。声の質を「飾り」ではなく、自分が聞きやすい「要件」に入れる——番頭の設計で最初に決めたのは、これでした。

番頭に任せることが、どんどん増えていった

当初、番頭が担当していたのは、太陽光発電の解説だけでした。
しかし、朝ブリーフィングという型が動き始めると、「これも、朝、まとめて聞けたら便利じゃないか」とアイディアが次々に出てきます。家中のデータが SawaLeaf Times に集約されていく形で、番頭の守備範囲は自然と広がっていきました。
- 今日と、これから数日の天気:気温・体感・降水確率・過去5年平均との差まで含めて。「今日は平均より涼しく、午後の雨に注意」といった生活寄りの解説になります
- 家族のカレンダー:今日と、数日先までの家族の予定。これがあるおかげで、「そう言えば今日はあの予定があった」を忘れずに済むようになりました
- 株式マーケット:日経平均、騰落レシオなど、投資判断の一次情報として
- トレンドウォッチ:ガソリン代の全国平均、ドル円レートなど、生活と投資に関わる指標
- 室内温湿度:SwitchBot 経由の各部屋の温湿度、ウッドデッキの実測

これらは全て SawaLeaf Times に集約されていて、番頭はここを見て解説文を組み立てます。「情報を集める場所」と「解説する仕組み」を分けたことで、後からデータソースを増やしても、番頭側のロジックを大きく変える必要がなくなりました。
朝、Sonos から流れてくる語りの中に、これだけの情報が畳み込まれている——見に行かなくても、耳で受け取れる状態が、こうして少しずつ育っていきました。
AIに、家族のことを教える場所を作った
番頭は、Gemini API を毎日呼び出して解説を作らせています。API 呼び出しは、ChatGPT のようなチャットと違い、前回の会話や家族のことを覚えていません。毎回、真っさらな状態から始まります。だから、覚えておいてほしいことは、こちらから毎回渡してあげる必要があります——それが「申し送り」の役割です。
番頭の設計で大事にしたことがあります。「番頭への申し送り」というテキスト入力欄を用意して、家族の固有名詞の読み方や、ブリーフィングの重点ポイントを、私が直接書き込めるようにしたことです。
たとえば、こんな内容を書いています。
- 「裕美」「ひろみ」「Hiromi」——カレンダー上の表記はさまざまだが、すべて「ヒロミ」と読む
- 「公文」は「クモン」と読む。ヒロミさん(妻)は生徒ではなく、公文式の先生(インストラクター)。だから「ヒロミさんの公文式の仕事があります」のように読み上げる
- 最低気温 3℃以下の霜予報がある日は、「今日夜は霜の危険があります。大切な苗は室内に入れてください」を必ず連絡事項として入れる

家族の予定表を番頭に読み込ませ始めた頃、奥さんの職場名が「公文式」だったせいで、番頭が奥さんを生徒として認識してしまう、という笑ってしまうような誤読がありました。訂正を申し送り事項に書き込むと、翌日から正しく読んでくれる。機能一覧には載らないこういう調整が、朝の語りを「他人の音声」から「うちの番頭」に変えていく——これは実際に運用してみて発見した部分でした。
声はジェームス、仕組みは番頭
最後に紹介しておきたい話があります。
「番頭」という名前は、実は、私が考えた名前ではありません。Claude からの提案でした。
私の元イメージは、あくまで執事や機長でした。落ち着いた声で、要点を語ってくれる誰か。声を選んでいるときには、名前まで決まっていました。ジェームスです。執事や機長なら、きっとジェームスという名前なんじゃないか——半分は期待混じりの、勝手なイメージです。声は今もジェームスで、毎朝しゃべっているのは彼です。
一方、Claude Desktop と相談する中で向こう側から出てきたのは、「番頭」という言葉でした。特定領域を任される管理役、という日本語の意味も含めて、妙にしっくりきました。しかも、番頭なら、シリーズにできると。
そして番頭は、この仕組みのコードネームになりました。ブリーフィングする声の名前がジェームス、仕組みの名前が番頭。同じものを、違う側から呼んでいます。
名前の型があると、「こういう仕事も、番頭に任せられるんじゃないか」と考えられるようになったのです。自動化して報告させたい、この作業を手伝わせたい——そういうイメージが作りやすくなりました。
- クラ番:レシートから、冷蔵庫の中身を担当するエージェント
- アジ番:クラ番の在庫を引き継ぎ、その日の献立を相談するエージェント
- 花番:庭の植物の状態を担当するエージェント
- 獣番:家に来る鹿や熊など、動物の気配を担当するエージェント
当時は「番頭シリーズ」と呼んでいましたが、いまとなっては、それが各エージェント作りになっているなという印象です。設計方針を先に決めたわけではありません。名前の型が先に立って、その器に、あとから中身が入っていった——後になって、そう思います。
耳で聞くことの手応え
振り返ってみると、番頭を運用してみて、耳で聞くアプローチの手応えがはっきりしてきました。
一番の違いは、行動に移せるかどうかでした。ダッシュボードで数字を見ていた頃は、「今日は発電量が多かったな」で終わっていました。数字は見える、でも、次に何をするかなど、アクションまで辿り着かない。番頭が朝、耳で解説してくれるようになってから、はじめて「今日は霜の危険があるから、苗を室内に入れよう」「今日は日差しが強いから、午前中に外の作業を終わらせよう」といった、その日の行動へと自然と繋がるようになりました。情報が、判断まで翻訳されて届く——これが、画面と語りの一番大きな違いだと、運用してみてはっきり分かってきたことです。
耳で聞くアプローチのメリットは、大きく3つあります。
- 見に行かなくても、届く:忙しい朝に、こちらから何かを開かなくても、必要な情報が耳に入ってくる。動きながら、着替えながら、コーヒーを淹れながら受け取れる
- 要点に翻訳されている:数字の羅列ではなく、AIが解釈して”今日、気にしておくべきこと”にまとめてくれる。「今日は平均より涼しい」「霜の危険があるから苗を室内へ」といった、行動に直結する言葉で届く
- 家族の予定まで含めた”今日の全体像”が一つの語りになる:天気、家計、株、家族の予定を、別々のアプリで確認するのではなく、一つの流れで受け取れる
一方、ダッシュボードは今もHAのタブに残っています。番頭ができたからといって、画面が不要になったわけではありません。役割が違うのです。
| 場面 | 画面(ダッシュボード) | 語り(番頭) |
|---|---|---|
| どう届く? | 見に行く(能動的) | 耳に入ってくる(受動的) |
| 何を確認できる? | 細かい数字、時系列の変化 | 全体像、今日の要点 |
| いつ使う? | 気になったとき、深掘りしたいとき | 毎朝、動きながらでも |
| 強み | 動いていることが一目で分かる | 見に行かなくても届く |
こうして並べてみると、両者のアプローチはどちらかを選ぶものではなく、それぞれ違う仕事をしていることが分かります。画面は”確認したいとき”に頼れる場所として、語りは”放っておいても届く”入口として。両方があるから、日々の暮らしが快適になる——番頭ができてから、それが分かってきました。
これらは、「エージェント設計とはこうあるべき」と考えて決めた法則ではありません。動かし、見なくなり、別の届き方を思いつき、AI と相談する——後になって見えてきたカタチです。
次回は、こうして順に生まれてきたエージェント群を、どうやって「一人で回せる開発の型」に落とし込んだかを紹介します。Claude Desktop と Claude Code の役割分担——SawaLeaf の三段構造の話です。
▼ 参考:現在の番頭
- 配信タイミング:毎朝の指定時刻(6:50〜7:10)に n8n が自動生成
- 担当領域:天気(前週・前月比較を含む季節感の解説)、家族のカレンダー、太陽光発電、株式マーケット、トレンドウォッチ(ガソリン代、ドル円レート)、室内温湿度
- データハブ:SawaLeaf Times(新聞スタイルの自作アプリ)に一旦集約 → 番頭が解説文を組み立てる
- 届き先:Sonos スピーカー、Home Assistant の再生ボタン、Alexa カスタムスキル、車では CarPlay 経由
- 申し送り事項:家族の名前の読み方、固有名詞の正しい読み、霜予報の連絡など、実運用の中で見つかった不便を私が直接書き込める場所
▼ 用語メモ
- MCP(Model Context Protocol):生成AIが外部のデータやツールを扱えるようにするための共通の仕組み。シリーズ第1回でも紹介
- Gemini API:Google が提供する生成AI のAPI。番頭では、集めたデータを解釈して解説文を書く役割
- TTS(Text-to-Speech):文字を音声に変換する技術。番頭では Google の TTS を採用
- Sonos:ネットワーク接続型のスマートスピーカー。家中に置いて、部屋ごとに再生を分けられる
- Home Assistant(HA):家電やスマートデバイスを一つの画面で管理できるオープンソースのプラットフォーム
- SwitchBot:既存の家電を後付けでスマート化できるデバイス群
- n8n:定期実行やサービス間連携を、コードを書かずに組める自動化ツール(シリーズ第1回でも紹介)
- Alexa カスタムスキル:Amazon Alexa に、独自の音声コマンドを追加できる仕組み

