『成果の出せないAI』の正体 ―― なぜ多くの組織でAIが業績につながらないのか

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「AIを導入したのに、業績への影響が見えない」

「AIのライセンスを配布したけど、効率化の実感がない」

「投資した分のリターンが出ているのか、誰も答えられない」

経営層からこうした声を聞く機会が、ここ1〜2年で増えてきました。生成AIの可能性は語られるものの、組織として何が変わったのかと問われると、答えに詰まる。そんな状況に心当たりはないでしょうか。

これは日本だけの現象ではないようです。海外の調査からも、同じ構造が浮かび上がってきています。


「6%の壁」――海外調査が示す現実

2026年4月、Forbesに掲載されたある記事が話題になりました。Cornell大学の客員教授で、AI戦略の専門家でもあるLutz Finger氏のコラムです。

Finger氏は冒頭で、2つの調査結果を引用しています。

  • Deloitteの調査:AI投資が1年以内に回収できる企業は、わずか6%
  • PwCの調査:実験段階のAIを本番運用にスケールできた組織は、20%
AI投資の期待100%からPwC調査20%、Deloitte調査6%へと減衰し「6%の壁」にぶつかる様子を示した図
組織のAI投資への期待100%に対し、本番運用までスケールできたのは20%、1年以内に投資回収できたのはわずか6%(PwC・Deloitte調査/Forbes)

つまり、多くの企業がAIに投資しているにもかかわらず、業績インパクトに繋がっているのはごく一部の組織だけ。残りの大半は、何らかの形でつまずいています。

Finger氏の結論はこうでした。

AIが失敗しているのではない。ワークフローが失敗しているのだ。

技術が未成熟だから成果が出ないのではない。多くの組織が、

業務のやり方は何も変えずに、AIだけを上に乗せている

――というのが氏の指摘です。


AIだけを「上に乗せる」と、なぜ成果が出ないのか

Finger氏はこれを「AIのボルト止め」と表現していますが、要するに、これまでの業務手順を一切見直さずに、AIをその手順に貼り付けるイメージです。

たとえば、ある会社にSOP(標準業務手順書)があったとします。新人研修で使うような「ステップ1、ステップ2…」と書かれた業務手順書です。これをそのままチャットボットや生成AIに読み込ませて、「この手順通りに動いて」と指示する。一見すると、自動化として理にかなっているように見えます。

ところが、これがほぼ確実に破綻するのです。

Finger氏は、その理由を

1987年のデンバー国際空港の事例

で説明しています。当時、空港は最新の自動手荷物処理システムを導入しましたが、稼働開始直後に失敗。原因は、技術ではなく

人間の行動

でした。

実際の現場では、ベルトコンベアから荷物が落ちたとき、作業員が手で拾って戻していました。これは手順書には書かれていない、

「現場の常識」

だったのです。新しい自動システムは、この

書かれていない暗黙知

を考慮していなかったため、すぐに破綻しました。

これと同じことが、いま生成AIの導入現場で起きています。

業務手順書には書かれていないけれど、現場では当然のように共有されている

段取り、配慮、判断

。「この案件は、まず田中課長に一声入れてから動かす」「このお客様は急ぎで動くと逆に怒る」――こうした暗黙のルールは手順書には現れません。AIは書かれている指示には従いますが、書かれていない暗黙知は持っていません。結果、表面的には動いているけれど、現場の感覚から見ると

何かが微妙にずれている

ような出力を続けることになります。

ここで一つ、気づくことがあります。

デンバー空港で抜け落ちていた

「現場の常識」

は、技術仕様の話ではありません。

現場のチームが時間をかけて作り上げてきた、職場文化そのもの

です。AIで成果が出ないとき、私たちが向き合うべきはツールの精度ではなく、その手前にある業務の流れと、職場の文化なのです。


多くの組織は、ステージ2を飛ばしてAIに向かっている

実はこのForbes記事の指摘、AIだけの問題ではありません。DX定着支援の現場から言うと、過去30年のデジタル化の歴史で

まったく同じ構造が繰り返されてきた

ものです。

このパターンを整理するために、DXを3つのステージで捉えてみます。要するに「

ステージ1:アナログをデジタルに移し

ステージ2:デジタル上で業務を統合し

ステージ3:デジタル上のデータを利活用する

」という流れです(詳しくは別記事

DXのステージ、説明できますか?

で書きました)。

なお、このフレームは2004年にスウェーデン・ウメオ大学のStolterman教授らが提唱した「デジタル・トランスフォーメーション」概念に行き着きます。これを2019年に欧米の研究者らが3段階(Digitization, Digitalization, Digital Transformation)として整理したものが、現在広く使われているDXのステージ論の原型です。

多くの組織は、紙や対面のやりとりをデジタルに置き換えるところまでは進んでいます。これがステージ1の景色です。

ここで誤解されやすいのは、「アナログをデジタルに置き換えればDXは進んでいる」という発想です。けれども、それは入り口にすぎません。本当の変化は、

ステージ2でバラバラのデジタル業務を統合し、ステージ3でそのデータから新しい価値を生み出す

ところまで進んで初めて起きます。

ところが、多くの組織は

このステージ2の作業を完了しないまま

、いきなり生成AIに向かっています。「ステージ1が終わったから、次はステージ3だ」と。

Forbes記事が言っていた「ボルト止め」とは、要するに

ステージ2を飛ばすこと

そのものなのです。

現状からステージ2を飛ばし、ステージ3の手前の壁に矢印が激突する様子を示した図
ステージ2を飛ばした組織は、AIの手前で墜落する。これが「AIのボルト止め」の正体

ステージ2で向き合うべきこと ―― 職場文化を洗い出し、役割を決める

ステージ2を通過するということは、ツールを足すことではありません。

デンバー空港の事例で抜け落ちていた「現場の常識」――それと同じものが、皆さんの職場にもたくさん埋まっています

。長年「無視されてきた」職場文化や暗黙の習慣を、ちゃんと洗い出すこと。そして、何をテクノロジーで解決し、何を人が担当すべきかを、職場で議論すること。これが、ステージ2の本体です。

30年前の業務の形を、今の感覚で問い直す

棚卸し、というと「今やっている業務を書き出す」だけのイメージを持たれることが多いのですが、本質はもう一歩深いところにあります。

多くの組織で今やっている業務の「アナログだった頃の形」は、おそらく30年くらい前に作られたものではないでしょうか。

当時は、紙の書類があり、印鑑があり、内線電話があり、コピー機があり、回覧板がありました。その時代の業務の流れが、デジタルに置き換わってもそのまま残っているケースが、本当に多いのです。

  • 押印リレーをワークフローシステムに置き換えただけで、承認そのものの必要性は見直されていない
  • 原本保管のために何重にも記録を残す癖が、クラウド時代にも引き継がれている
  • 「念のため上長に確認」という習慣が、メールでもチャットでも繰り返されている
  • 回覧板的な周知を、今度は全社チャットチャネルでやっている

「あれ、これいらないんじゃないか?」と気づく業務が、職場に少なからずあるはずです。

そして大切なのは、

それぞれの業務が「なぜ残っているのか」を問うこと

。その答えの多くは、「以前からの慣習」「念のため」「上層部が安心するから」――つまり、

目に見えない職場文化や習慣

です。棚卸しとは、業務をリストアップする作業であると同時に、

長年無視されてきた職場文化を可視化する作業

でもあります。

テクノロジーで解決すること、人が担当すべきこと

棚卸しで業務と文化が見えてきたら、次は

「これはテクノロジーで解決すべきか、人が担当すべきか」

の議論です。

これは技術的な決定というより、

職場の対話

です。

  • 「お客様への最初の連絡は、温度感が出るから人がやろう」
  • 「請求書のチェックは、ルールが明確だから自動化に任せられる」
  • 「企画書の最終確認は人だけど、たたき台はAIに作ってもらおう」

ここで気をつけたいのは、判断の基準が

効率だけではない

ということです。

  • お客様への第一報をすべてAIに任せたとき、本当に関係性は維持できるのか
  • 経費申請を自動化したとき、現場の小さな違和感を誰が拾うのか
  • 議事録をAIが書くようになったとき、議論の温度感をどう残すのか

これらは「効率」だけで決められません。

自分たちの職場文化として、何を大切にしたいか

――その対話なしに、答えは出ないのです。

結局、ここに向き合えるかが、すべて

AIで成果を出せる組織と出せない組織を分けるのは、技術力ではありません。

ステージ2の中で、自分たちの職場文化と本気で向き合えるかどうか

。これだけが、本質的な分かれ目だと感じています。

「これまで通りやれ」という空気が支配的な職場では、棚卸しも役割分担の議論も進みません。逆に、「これまでのやり方を見直してもいい」「自分たちで決めていい」という空気がある職場では、ステージ2を通過し、AIが業務の中で意味を持ち始めます。


あなたの組織は、AIで今どのステージにいますか?

「DXは終わった、次はAX(AI Transformation)だ」と言われる時代ですが、本当にステージ2を丁寧に通過した組織だけが、AIの恩恵を受けることになるのではないでしょうか。

ステージ1のままAIを「ボルト止め」していないか。30年分の業務と職場文化を、今の感覚で洗い出せているか。テクノロジーと人の役割を、自分たちで決められているか。

足元を確認することから、次の一手が見えてくるはずです。


関連ブログ

組織がステージ2を飛ばしてAIに向かうと、現場では何が起きるのか。AIが生成した「成果のように見えて、中身のない仕事」が増えていく――そんな現象も、その症状のひとつかもしれません。個人とAIの向き合い方から、この問題を掘り下げました。

👉

ワークスロップとは何か — AIで時短したはずが、仕事が増えていく現象

また、この記事で触れたDXの3つのステージについては、こちらで詳しく書いています。

👉

DXのステージ、説明できますか? ― 職場で”納得して進む”ための共通フレームワーク


参考記事

Lutz Finger “AI Is Not Failing — What Executives Need To Know About AI Workflows” Forbes, 2026年4月26日

https://www.forbes.com/sites/lutzfinger/2026/04/26/ai-is-not-failing-what-executives-need-to-know-about-ai-workflows/

参考文献

Stolterman, E., & Fors, A. C. (2004). Information Technology and the Good Life.
Verhoef, P. C., et al. (2019). Digital transformation: A multidisciplinary reflection and research agenda. Journal of Business Research, 122, 889-901.

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