第2回:あなたがこの仕事を選んだ理由 – AIを味方につける 自分らしい働き方
シリーズ『AIを味方につける 自分らしい働き方』第2回
前回、今が「キャリアの棚卸し期間」だというお話をしました。今回は、その棚卸しを始める前に、一つ思い出してほしいことがあります。
最初の「なぜ」を覚えていますか
棚卸しというと、スキルや実績の整理を思い浮かべるかもしれません。
でも、その前に振り返っておきたいことがあります。
あなたは、なぜ今の仕事を選んだのですか?
最初のキッカケは、何だったでしょうか。
私の甥は、今、看護師として働いています。子どもの頃、ぜんそくがひどくて入院することが多かったそうです。そのとき、看護師さんに親身に寄り添ってもらった。
看護師になりたいと言ったとき、周りの大人たちは「それなら医者を目指したら」と言ったそうです。でも、本人は看護師がよかった。医者ではなく、看護師。患者のそばで寄り添う、あの看護師さんのように。 彼なりの「なぜ」が、そこにあったのだと思います。
今では優秀な看護師として、患者さんのそばにいます。
私自身はどうだったか。
大学時代、通信やインターネットの技術を学ぶ中で、ある感覚を持ちました。この技術は、距離をなくす。離れていても、「遠い」と感じさせない。 それに気づいたとき、「これを多くの人に使ってもらいたい」と思いました。それが、この業界に入ったキッカケです。
甥の場合は「寄り添ってもらった経験」。私の場合は「技術の可能性への気づき」。キッカケの形は違いますが、共通していることがあります。
どちらも、「こうしたい」という意志から始まっている。
あなたはどうでしょうか。
最初に今の仕事を選んだとき、何を思っていましたか。どんな場面が、その選択につながりましたか。
すぐに思い出せなくても構いません。長く働いているうちに、最初の「なぜ」は埋もれていくものです。 日々の業務に追われ、組織の期待に応え、気づけば「なぜこの仕事をしているのか」を考える余裕がなくなっていた。そういう方も多いのではないでしょうか。
でも、埋もれているだけで、なくなったわけではありません。
AIには「なぜ」がない
ここで少し、AIの話をさせてください。
AIは、驚くほど多くのことができるようになりました。文章を書く、データを分析する、資料をまとめる。かつては人間にしかできなかった作業が、次々と自動化されています。
でも、AIには決定的に欠けているものがあります。
「なぜ、それをするのか」という動機がない。
AIは、指示があって初めて動きます。「こうしたい」「こうなりたい」という内発的な思いを持つことができません。どれだけ高度な処理ができても、選択の理由を語ることができないのです。
私の甥が看護師を目指したのは、「あのとき寄り添ってもらったから、自分もそうしたい」という物語があったから。周りが「医者のほうがいい」と言っても、彼には彼の理由があった。
私がこの業界に入ったのは、「この技術を届けたい」という思いがあったから。
この「物語」は、AIには持てません。
そして、この物語こそが、私たち人間の価値の根っこにあるものだと思うのです。
「作業」と「価値」は違う
「AIに仕事を奪われる」という言葉をよく聞きます。
確かに、AIが得意な領域はあります。計算、処理、自動化。これらの作業においては、人間はAIに敵いません。スピードでも、正確さでも、稼働時間でも。
でも、奪われるのは「作業」であって、「価値」ではない。
私はそう考えています。
価値とは何か。
それは、「なぜそれをするのか」を持っていること。選択の理由を語れること。そして、その選択を続けていく意志を持っていること。
長年の取引先との間に築いた信頼。部下の変化に気づく感覚。トラブルが起きたときに「自分がやる」と決める判断。うまくいかなくても諦めずに続ける粘り強さ。
これらはすべて、「なぜ」を持っている人間だからこそ発揮できるものです。
AIには、「悔しい」がありません。「どうしても成し遂げたい」もありません。「この人のために」という思いも持てません。
だから、人間の価値は「作業の速さ」ではない。
意志の強さ。続ける力。人との関係性。これらが、AI時代における人間のコアバリューです。
あなたのコアバリューは、すでにある
ここまで読んで、「でも、自分にそんな大層なものがあるだろうか」と思った方もいるかもしれません。
安心してください。
コアバリューは、これから身につけるものではありません。すでにあなたの中にあります。
最初にこの仕事を選んだとき、何かしらの「なぜ」があったはずです。そして、長く働く中で、その「なぜ」は形を変えながらも、あなたの判断や行動の中に生き続けています。

コアバリューは、これから身につけるものではありません。
すでにあなたの中にあります。
最初にこの仕事を選んだとき、何かしらの「なぜ」があったはずです。
そして、長く働く中で、その「なぜ」は形を変えながらも、
あなたの判断や行動の中に生き続けています。
社内の調整役として走り回った経験。部下の育成に時間を使った日々。トラブル対応で最前線に立ったこと。協力会社との関係を築いてきたこと。
一見すると「雑務」に見えるような仕事の中にも、あなたならではの判断と意志が詰まっています。
ただ、忙しさの中で、それを「価値」として認識する機会がなかっただけ。
棚卸しとは、その埋もれた価値を掘り起こす作業です。
おわりに
今回お伝えしたかったのは、ひとつだけです。
あなたの価値は、「なぜ」を持っていること。
最初にこの仕事を選んだ理由。続けてきた理由。その中に、AIには代替できないあなただけのコアバリューがあります。
でも、長く働いているうちに、その「なぜ」は見えにくくなっていることも多い。
次回は、過去の仕事を振り返りながら、あなた自身の「価値パターン」を見つける方法についてお伝えします。
焦る必要はありません。ゆっくり、一緒に掘り起こしていきましょう。