【第3回】レッド職場の未来:AIと共に動く“ひとりユニコーン”時代へ?
1. はじめに
前回までの連載では、職場を5つの色に分けて、AI時代にそれぞれがどう変化していくかの全体像を描きました。今回はその中でも、最も「即断・即決・即行動」が求められる“レッド職場”を取り上げます。
一般的にティール組織(原題: Reinventing Organizations)に説明されるレッド職場は「恐怖や力で支配する組織」とされますが、サワモト式ではそれをカリスマ的リーダーが率いる現代のスタートアップの職場として捉えます。トップの強い牽引力とスピード命の文化。そこにAIが入ると、何が起きるのでしょうか?
今、ヒトにとって「そこにいる意味」が厳しく問われはじめています。
2. レッド職場とは何か?サワモト式の視点
レッド職場は、強いリーダーのもとで動くトップダウン型の組織です。 判断は上が行い、下はスピード感を持って実行する。上下関係は明確で、組織全体がひとつの命令で一気に動けるようになっている。スタートアップ企業の黎明期や、緊急を要する状況を乗り切る時など、今でも必要とされるスタイルです。
ただし、特徴的なのは「意志の共有」がほとんどないこと。言われたことを的確に、早くこなすことが求められます。これが、AIとの親和性を高めるポイントにもなっていきます。
3. AI導入がもたらす構造変化:上司も部下も要らなくなる?
AIの導入によって、レッド職場の上下関係は大きく揺らぎ始めます。
たとえば上司。今までは迅速な判断を求められていた存在ですが、単純判断ならAIのほうが早く、正確です。営業の割り振り、在庫の確認、問い合わせへの即応など、かつて上司の腕の見せどころだった領域が、AIに置き換えられていきます。
一方、部下も安泰ではありません。「言われたことを正確に実行するだけ」なら、ロボットやAIエージェントのほうが安定しています。つまり、最終的には「上司+AIエージェント」で仕事が回ってしまう構図も十分ありえるのです。
このとき、ヒトが職場に残る理由とは何か?が改めて問われることになります。

4. 部下はどうする?選ぶか、変わるか
レッド職場で働く部下の中でも、ただ言われたことをこなしてきた人は、AIエージェントに最も置き換えられやすい立場にあります。
では、どうすればよいのか?
答えは、「意志を持って考え、動くこと」。なぜこの仕事が必要か、自分はどう貢献できるか。それを考え、上司やAIエージェントに提案したり、フィードバックできる人だけが価値を持ち続けます。
この状態は、いわばグリーン的な進化です。共感や意味づけを持って動ける人材になるということ。職場全体がレッドのままであっても、個人の内面はグリーン的な価値観を育てていくことができます
また、もしそれが難しいなら、自分の意志を発揮できる職場=アンバーやグリーンへ“色を変える”という選択肢もあります。
5. 上司はどうする?AIを“使う人”か、“使われる人”か
上司の立場もまた、再定義を迫られています。
命令を出すだけの上司は、AIに簡単に置き換えられるでしょう。しかし、「人の動機づけ」や「意味を伝える」ことはAIにはできません。つまり、上司がヒトである価値は、「感情や意志を扱えること」にかかってきます。
これからの上司は、AIの判断をそのまま使うのではなく、それを部下にとって納得感あるものとして“翻訳”し、共感とともに伝える力が求められます。
AIと共存しながら、ヒトの感覚を忘れない。それが上司に残された役割です。
6. リスキリングの方向性:ヒトが“いる意味”をつくる
AI時代において、ヒトが価値を持ち続けるには「存在意義」を自分でつくる必要があります。
部下であれば:
- 現場で感じた違和感をAIや上司に届ける「翻訳者」的な役割
- データに現れない微妙な空気や感情を読み取る力
上司であれば:
- 判断力よりも「人の意志を引き出す力」
- 部下やAIを巻き込んで動機づける力
そしてその前提として必要なのが、「自分がどうありたいか」を考える力です。つまりスキル以前に、“意志”が問われる時代になったとも言えるでしょう。

7. まとめ:レッド職場の今後はどうなるか?
レッド職場は、AIとの親和性が高く、命令と実行を高速で回すフェーズにおいては、AIエージェントの導入によってヒトの存在が不要になっていく構造を持っています。とくに、指示通りに動くだけの役割は代替の最有力候補です。
しかし一方で、ヒトが強い意志を持ち、リスクを取りながら意思決定し、新規事業やプロジェクトを一人称で立ち上げていく場面では、レッド的な「突き進む力」は今後も求められるでしょう。
これからの時代には、AIとペアを組んで自己完結的に動く人——いわば「ひとり+AIエージェント」のスタイルが増えていくかもしれません。OpenAIのサム・アルトマン氏が語る“ひとりユニコーン”とは、まさにこのような個の時代の象徴です。
レッド職場は、かつての組織的ワンマン文化ではなく、意志ある個人とAIのスピード駆動型の協働によって、別のかたちで再定義されていくのかもしれません。
次回は、ルールや階層で動く“アンバー職場”を掘り下げていきます。AI時代における秩序とヒトの役割は、どんなバランスで成り立つのか?お楽しみに。