なぜ、M365が本当に根付く企業には“全社のプラン”があるのか
Microsoft 365を導入して、一部の部署では確かに使われている。Teamsで会議が回り、SharePointに資料が集まり、業務の流れも少しずつ変わってきた——なのに、全社で見ると変化が起きていない。そんな状態に、心当たりはないでしょうか。
これは特別なことではありません。M365導入を支援してきた50社以上の現場で、繰り返し目にしてきた風景です。そして見えてきたのは、定着する企業とそうでない企業のあいだに、ある明確な違いがあるということでした。
部署で成功するDXと、全社に広がるDXは、別のものだった
ある部署でM365が使われ始めると、最初は手応えがあります。営業や開発のように、全員がPCの前で働くオフィスワーカーの部署は、比較的スムーズに乗っていきます。Teamsの会議、チャットでの相談、ファイルの共同編集——「便利だ」「これなら使える」という声が、現場から自然に上がってきます。
ところが、これを全社に広げようとした瞬間、別の景色が見えてきます。
たとえば、生産管理の部署。工場では全員がオフィスワーカーではありません。派遣の方も多く、そもそもM365のライセンスが配られていないケースもある。会社支給のスマートフォンを持たない人もいる。「使う」以前に、同じ土俵に立てる人と立てない人がいるのです。
営業や開発と同じやり方を持ち込んでも、現場は動きません。それは、現場の人たちのやる気の問題でも、ITリテラシーの問題でもない。そもそも前提条件が違う。この事実に、多くのDX推進担当者が、走り始めてから気づくことになります。
「あの部署は対象外」と切り離さずに、進められるか
ここで、企業の振る舞いが二つに分かれます。
ひとつは、難しい現場を「対象外」として静かに切り離していくやり方。ライセンスや端末が揃わない部署、業務の性質が違う部署を、いったん横に置いてDXを進める。表向きは「フェーズを分けている」と語られますが、結果的に切り離された部署はそのまま戻ってこないことが多い。
もうひとつは、難しいからこそその部署と一緒に「どう使えるか」を考えるやり方です。M365が定着していく企業に共通していたのは、こちらでした。
ある現場で、生産管理部の担当者とDX推進部門が同じテーブルに座って、知恵を出し合っていました。全員に端末とライセンスを一度に配るのは、現実的にすぐにはできない。では、何ができるのか。出てきたのは、こんな答えでした。
まずは、「こう使える」を社内に見せること。
現場を動く担当者がスマートフォンのTeamsで現場の写真を撮ってアップする。離れた場所にいるメンバーが、それを見て次の動きを決める。「全員に配ってから始める」のではなく、「使える事例を先に作って、流れを変えていく」。これが、その部署の答えでした。
事例が一つ生まれると、社内の空気が変わり始めます。「うちでも使えるかもしれない」という声が、別の現場からも出てくる。最初は懐疑的だった人が、効果を目にして手を動かし始める。切り離す代わりに、小さな成功を一緒に作りに行く——これが、全社に広がるDXの実像でした。
DXは「ITの仕事」では完結しない、ということ
こうして振り返ると、見えてくることがあります。
部署単位の成功は、ツールの使い方をうまく教えれば実現できます。研修もハンズオンも、技術支援として有効です。けれど、全社で定着するかどうかを分けるのは、もっと別のところにあります。
「あの部署はうちでは難しい」と止まらずに、その部署の担当者と一緒に答えを探せるかどうか。
それは、IT部門だけでは持ちきれない仕事です。生産管理の業務を熟知しているのは現場の担当者ですし、その人の知恵を引き出せなければ、現場で回る使い方は生まれません。一方で、現場の担当者だけでも難しい。M365で何ができるか、他の現場ではどう工夫しているか——その視点は、IT側や外部の伴走者がもたらすものです。
つまりDXの定着は、立場の違う人たちが、同じテーブルで知恵を持ち寄れる場をどう作るかという話に行き着きます。これが、私が「会社ぐるみのプラン」と呼んでいるものの正体です。立派な計画書を作ることではなく、難しい現場と一緒に答えを探し続ける覚悟と仕組みが、社内にあるかどうか。
私が、デジタルガーデナーとして関わる理由
同じテーブルに、立場の違う人たちが座る。言葉にすると簡単ですが、これがとても難しい。
営業の言葉と、工場の言葉は違います。IT部門の優先順位と、現場の優先順位も違う。お互い悪気があるわけではないのに、話が噛み合わない。そんな場面に、私は何度も立ち会ってきました。
そういうとき、両者のあいだに立ち、それぞれの言葉を訳し直しながら、一緒に「うちならどう使えるか」を見つけていく。事例を一つ作り、それを社内に見せていく。その伴走を、デジタルガーデナーとしてやらせていただいています。
大切なのは、上から正解を持ってくることではありません。それぞれの現場が持つ事情に敬意を払いながら、その場所で芽吹く形を、一緒に探していくこと。植物が、土壌に合わせて根の張り方を変えていくように。
最初の一歩は、「話せる場」をひとつ作ること
もし、あなたの組織でM365が部署単位で止まっているなら、最初の一歩は壮大な計画ではないかもしれません。
まずは、難しいと感じている現場の担当者と、DX推進や情シスの担当者が、「うちの部署では、どう使えるだろう」と話せる場をひとつ作ってみる。それだけでも、空気が変わり始めることがあります。
そして、その場に外部の伴走者がいることで、対話がもう一歩進むなら——その役割を、私はやらせていただきたいと思っています。
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