Future Series 第5回:Pluralityの実践 – 対立を創造に変える技術
はじめに – 前回の振り返り
前回の記事では、AIが人と人をつなぐ「第三の存在」として機能する可能性を見てきました。
大量のデータを処理し、中立的な立場から選択肢を示す。透明性を持って判断の根拠を示し、最終的な決定は人間に委ねる。
理論としては理解できる。でも、実際にそれが機能した事例はあるのか。
台湾で、注目すべき実践がありました。
台湾での実践 – 対立を乗り越える
2015年、台湾でUberをめぐる激しい対立が起きていました。
利用者は利便性を求め、既存のタクシー業界は規制を求めました。SNSは炎上し、街頭ではデモが起きていました。
従来なら、こうした対立の解決方法は限られています。多数決で決める。トップダウンで押し切る。声の大きい人の意見が通る。どの方法も、誰かが不満を抱えて終わります。
そこで、台湾政府は、vTaiwanというオンラインプラットフォームを立ち上げました。
vTaiwanでは、Polisというオープンソースのツールを使って、数千人が参加し、それぞれの意見を投稿する仕組みを作りました。PolisのAIが、すべての意見を分析しました。
結果、80%以上の人が納得できる解決策が生まれたのです。
シンプルだが強力な発見
vTaiwanが機能した理由は、実はシンプルです。
激しく対立しているように見えて、実は… 多くの人に共通した意見がありました。
- ドライバーの安全研修は必要
- 乗客の安全を守る仕組みは重要
- 既存のタクシー業界も改善の余地がある
- 新しい技術を活用する機会は大切
人間のファシリテーターだけでは、数千人の意見からこの「共通点」を見つけ出すのは困難です。会議は長時間化し、疲労で判断が鈍り、声の大きい人の意見に偏ってしまいます。
でもAIなら、すべての意見を等しく扱い、パターンを見つけ出せる。
そして重要なのは、「対立」ではなく「共通点」から始めたことです。
みんなが合意できることを確認してから、対立点を整理する。この順序が、建設的な議論を生み出しました。
台湾政府は、この「共通点」を基に新しい規制を設計しました。Uberのドライバーにも安全基準を要求し、既存のタクシー業界にも近代化を支援しました。
対立を「勝ち負け」ではなく、「創造」に変えた。

「vTaiwanが見つけた答え」
「対立」ではなく「共通点」から始める
対立を「勝ち負け」ではなく、「創造」に変える
80%以上が納得できる解決策が生まれた
台湾では、これをPlurality(複数性)と呼んでいます。多様性を排除するのではなく、活かす技術です。詳しくはオードリー・タンとグレン・ワイルの著書『Plurality』に譲りますが、核心はこうです:
AIが人間を置き換えるのではなく、人間同士の協働を支援する。
グリーン社会への答え
ここで、このFutureシリーズ全体の流れを振り返りましょう。
第1回で見たように、私たちの社会は今、オレンジ(成果主義)からグリーン(多様性重視)へ移行しています。
第2回では、グリーン社会の理想を見ました。ダイバーシティを尊重し、パーパスを大切にし、フラットな組織を目指す。でも、その実現は困難です。
第3回で、その理由を掘り下げました。ダイバーシティは豊かさをもたらす一方で、複雑さももたらします。共通言語の喪失、エコーチェンバー、異なる「正しさ」の対立、そして処理しきれない情報量の爆発。
グリーン社会の理想は美しい。でも、人間だけでは、その複雑さを扱いきれない。
これが、私たちが直面している現実でした。
第4回で、AIという新しい可能性を見ました。人間だけでは処理しきれない複雑さを、AIが助けてくれるかもしれない。
そして今回、台湾の実践が示したのは、この可能性が現実になりうるということです。
vTaiwanは、まさにグリーン社会が抱える課題への答えでした:
- 多様性を排除せず、活かす
- すべての声を等しく聞く
- 対立を創造に変える
- 人間とAIが協働する
グリーン社会が目指す「多様性の尊重」。人間だけでは扱いきれなかったその複雑さを、AIの支援で乗り越えられるかもしれない。
AIが、私たちが共存できる世界のアイディアを提案してくれるかもしれない。
これが、vTaiwanが示した希望です。
もし、この仕組みが社会にあったら
少し想像してみてください。
もしPluralityのような仕組みが、もっと広く社会で使われるようになったら。
国際的な対立
たとえば、増え続ける外国人との共生をめぐる議論。賛成派と反対派が激しく対立しているように見えて、実は「安全な社会であってほしい」「お互いを尊重したい」という共通点があるかもしれません。
SNS上での分断
著名人の発言をめぐって、賛否が真っ二つに割れる。でも、AIが全体の意見を可視化したら、「どちらの極論でもない、多くの人が納得できる視点」が見えてくるかもしれません。
身近な社会問題
働き方、子育て支援、地域の開発計画。利害が対立しているように見えて、実は多くの人が望んでいる「共通のゴール」があるかもしれません。
社会規範をめぐる世代間のズレ
若い世代の行動が、上の世代には理解できない。でも、対立するのではなく、「なぜそう考えるのか」を可視化できたら、お互いの背景が見えてくるかもしれません。
Pluralityのような仕組みがあれば、社会はもっと平和になるかもしれない。
対立を「勝ち負け」ではなく、「創造」に変える。
すべての声を聞きながら、共通点を見つける。
そんな社会が、実現可能かもしれない。

Pluralityのような仕組みがあれば、
社会はもっと平和になるかもしれない
対立を「勝ち負け」ではなく、「創造」に変える
すべての声を聞きながら、共通点を見つける
そんな社会が、実現可能かもしれない
次の課題
多様性は、複雑さをもたらします。でも、それは乗り越えられない壁ではありません。
台湾の実践は、その可能性を示しました。適切な仕組みがあれば、多様性は創造の源になりえます。
グリーン社会は、実現可能かもしれない。AIという新しい道具を使えば。
ただし、台湾の事例は政府主導の大規模なプロジェクトでした。特殊な条件下での成功であることは確かです。
でも、この考え方—AIを使って多様性を活かす—は、もっと身近な場面でも応用できるはずです。
そこで、次の問いが浮かび上がります。
企業や地域コミュニティでは、誰がこの種のツールを活用するのでしょうか。
よくある誤解は、「グリーン組織 = フラット組織 = リーダー不要」というものです。
でも、情報量が爆発し、AIが意見を整理してくれる時代に、リーダーの役割は本当に不要になるのでしょうか。
むしろ、リーダーに求められる役割が「変わる」のではないでしょうか。
次回は、グリーン社会におけるリーダーシップについて考えていきます。
変わる役割と、変わらない役割。その両方を見ていきましょう。
【参考文献】
- オードリー・タン、E・グレン・ワイル著『Plurality:デジタル時代の協働的テクノロジーと民主主義』
- vTaiwan公式サイト:https://vtaiwan.tw/
- Polis:https://pol.is/
本記事は Future Series:これからの社会と共創の未来 の一部です。