Future Series 第2回:グリーン社会とは何か – まだ誰も完全には体験していない世界
前回の記事では、私たちの社会が「オレンジ(達成型)」から「グリーン(多元型)」への移行期にあることをお話ししました。成果主義一辺倒の時代から、多様性や共感を重視する社会へ。理想的には素晴らしい変化のはずなのに、なぜか日常のコミュニケーションが難しくなっていると感じている人も多いのではないでしょうか。今回は、そのグリーン社会の実像に迫ります。
「普通」が通用しなくなった職場
以前勤めていた会社で、外国人の同僚が増えた時のこと。
「とりあえず、プロジェクトの様子を見ながら進めましょうか」と提案すると、「具体的には何を?いつまでに?」と真剣に質問される。「お疲れ様でした」と挨拶すると「私は疲れていません」と真顔で返される。
彼は優秀で真面目。でも、日本の職場で「当たり前」だった空気感が、ことごとく通用しない。外国人の同僚が増えた職場で、「阿吽の呼吸」がもはや通用しなくなった。こんな体験、最近増えていませんか?これって、第1回でお話しした「オレンジからグリーンへの移行」の現実なんです。
グリーン社会って、具体的にはどんな感じ?
「多様性を大切にする社会」と聞いて、あなたはどんな光景を思い浮かべますか?
様々な背景の人たちが対等に意見を言い合って、お互いの価値観を尊重し合って、みんなで合意を作りながら物事を進めていく。確かに理想的です。でも、これを実際にやってみるとどうなるでしょう?
例:チームランチの店を決める

オレンジ時代なら: 「部長が決めて終わり」または「多数決で決定」。5分で解決。
グリーン時代なら:
- Aさん(日本人):「近くて早い店がいいですね」
- Bさん(ムスリム):「ハラル対応しているか確認したいです」
- Cさん(ベジタリアン):「植物性のオプションはありますか?」
- Dさん(アレルギー持ち):「成分表示を確認できるお店で」
- Eさん(環境意識高い系):「地産地消のお店はどうでしょう」
- Fさん(車椅子利用):「バリアフリーアクセスも重要ですよね」
みんな正しいことを言っています。でも、これら全てを満たす店を見つけるのに、一体どれくらい時間がかかるでしょう?
「理想」を実現しようとすると、何が起きるのか
グリーン社会が目指すものは確かに魅力的です。でも、これらを本気で実現しようとすると…
ダイバーシティを進めると:異なる視点から革新的なアイデアが生まれる一方で、「普通はこうだよね」が通用しなくなります。
みんなで決めるようにすると:決定への納得度が高まる一方で、意思決定に時間がかかります。
フラット組織にすると:誰もが主体的に行動できる一方で、「結局、誰が決めるの?」という新しい混乱が生まれます。

つまり、グリーン社会の素晴らしい要素は、同時に新しい困難も生み出すのです。考慮すべき要素が爆発的に増えるからです。
なぜ完璧なグリーンは困難なのか
世界中を見回しても「完璧なグリーン社会」を実現している例がほとんどない理由。それは一人の人間が扱える複雑さには限界があるからです。
先ほどのランチ選びの例を思い出してください。6人の多様な要求を全て満たそうとすると、膨大な時間がかかります。そして、これが毎日続く。すべてのメンバーに対して、その人が理解できる方法で丁寧に説明し、全員が納得する解決策を見つける。これを現実的に続けることは不可能です。だからこそ、1対1の面談(One on One)のような個別対応の仕組みが必要になってきているのです。
真のダイバーシティと完璧な合意形成を両立させるのは、非常に複雑な課題です。すべての要求を満たすことは難しい。では、どうすればいいのでしょうか?その答えが「パーパス」という考え方にあります。
解決の鍵:パーパス(共通目的)という羅針盤
全員を完璧に満足させることは無理でも、共通の目的(パーパス)があれば、優先順位をつけることができるのです。
第1回で例に出した「強い部活動」を思い出してください。野球部なら「全国大会出場」という明確なパーパスがある。そのパーパスに向かって、ピッチャー、キャッチャー、内野手…それぞれ違う役割の人が協力する。
でも注目すべきは、部活動は決して「完全にフラット」ではないということです。先輩後輩の関係があり、経験豊富な先輩は後輩に技術を教え、後輩は先輩をリスペクトしながら学ぶ。これは階層的支配ではなく、パーパス達成に基づく関係性なのです。
さらに、ここで重要なのは透明性です。なぜその先輩がリーダーなのか、なぜそのルールがあるのか。これらすべてが「全国大会出場」というパーパスに照らして明確に説明される必要があります。「昔からそうだから」ではなく、「この経験があるから」「パーパス達成のために必要だから」という理由が共有されている。これが、昔ながらの理不尽な縦社会との決定的な違いです。
先ほどのランチ選びの例で考えてみましょう。
もしチームに明確なパーパスがあったら:「健康で持続可能な働き方を実現し、多様な仲間と共に社会課題を解決する」
このパーパスがあれば判断基準が明確になります。多様性の尊重と持続可能性がパーパスの核だから、ハラル対応、ベジタリアン対応、バリアフリーは必須条件。たとえオフィスから少し遠くても、これらの条件を満たす店を選ぶ。つまり、「5分で行ける便利な店」よりも「パーパスに合った店」を優先する、という判断ができるのです。
さらに、ダイバーシティ推進の経験が豊富なメンバーがいれば、その人の意見を重視する。新人は経験者から「なぜその判断をするのか」を学ぶ。つまり、パーパスがあることで、誰がどの場面でリーダーシップを取るべきかが明確になるのです。
このように、パーパスという共通の目的があれば、多様性の複雑さを乗り越えて、チームをまとめることができる。理想的なグリーン社会への一つの答えがここにあります。
でも、本当にそれだけで十分なのでしょうか?
「秩序あるグリーン」の特徴
よくある誤解なのですが、ダイバーシティやグリーン社会というと、「全員が完全に平等」「何でもあり」と思われがちですが、それは違います。目的を達成するためには、明確なルールと透明な役割分担が必要なのです。
これは第1回で紹介したグリーンとは少し違う、より現実的なグリーンの姿です:

共通目的による結束:パーパスに向かってみんなが一致団結
多様性の活用:異なる強みを持つ人が適材適所で活躍
意思決定の透明性:なぜその判断になるのか明確に説明される
学び合う文化:経験者から学び、成長していく文化
相互リスペクト:役割は違うが、お互いを尊重し合う
- 共通目的による結束:パーパスに向かってみんなが一致団結
- 多様性の活用:異なる強みを持つ人が適材適所で活躍
- 意思決定の透明性:なぜその判断になるのか明確に説明される
- 学び合う文化:経験者から学び、成長していく文化
- 相互リスペクト:役割は違うが、お互いを尊重し合う
特に「透明性」は重要です。AIに透明性が求められるように、人間の判断にも透明性が必要です。「なぜその人がリーダーなのか」「なぜそのルールがあるのか」が、パーパスに照らして明確に説明できること。これが健全な「秩序あるグリーン」の条件なのです。
実際、成功している「グリーンな」組織を見ると、みんなこのパターンです。明確なパーパスを持ち、意思決定の透明性があり、それに向かって多様な人々が学び合いながら協力している。まるで「強い部活動」のように。
それぞれの「部活」が、それぞれの「グリーン」を作る
野球部には野球部の常識があり、茶道部には茶道部の価値観がある。どちらも素晴らしい「部活」ですが、パーパスも文化も全く違います。
同じように、それぞれの組織が、独自の「グリーン」を形成していいのです。IT系スタートアップと老舗製造業のグリーンは違って当然。そして、その組織の価値観に合わない人は、無理に属する必要はありません。
これは排除ではなく、お互いが幸せになるための選択です。それぞれが自分に合う「居場所」を見つけることで、本当の意味で能力を発揮できるのです。多様なグリーンが存在することこそが、社会全体の豊かさだと思うのです。
でも、現実はなぜ分断が起きているの?
ここまで読んで、新しい疑問が浮かんできませんか?
「パーパスがあれば多様性をまとめられるって言うけど、現実はどうなの?SNSでは毎日炎上が起きてるし、職場でも価値観の対立が増えてるし、政治の世界では分断が深まってる。『みんなで話し合いましょう』と言ってるのに、なぜか対立ばかりが目立つのはなぜ?」
これって、確かにおかしな話です。多様性を尊重し、対話を重視するグリーンな時代のはずなのに、なぜ人と人の分断が激しくなっているのでしょうか?
第3回では、この矛盾の正体に迫ります。ダイバーシティが生み出す「つながり」の新たな課題とは何なのか。そして、本当に建設的な対話を実現するために、私たちには何が必要なのか。
グリーン社会への理想と現実のギャップを埋める、具体的な道筋を探っていきます。
コラム:あなたの周りで「グリーン社会の兆し」を感じませんか?
私たちの日常で、こんな変化に気づいたことはありませんか?
職場で:
- 以前より多様なバックグラウンドの人が働いている
- 「なぜこの仕事をするのか」が語られるようになった
- 上司の指示だけでなく、チーム全体で話し合う場面が増えた
地域で:
- 外国人住民が増えて、多言語の案内が当たり前になった
- 町内会の決め方が「多数決」から「話し合い」に変わってきた
- 環境や持続可能性について考える機会が増えた
家族で:
- 子どもの意見も対等に聞くようになった
- 「昔はこうだった」よりも「今はどうするか」を大切にしている
- 一つの正解を押し付けず、それぞれの選択を尊重するようになった
これらはすべて、社会が「オレンジからグリーンへ」移行している兆しかもしれません。小さな変化ですが、積み重なることで、社会全体が少しずつ変わっていく。あなたの周りでは、どんな変化を感じていますか?
参考文献・関連資料
- フレデリック・ラルー著『Reinventing Organizations』(英治出版)
- サイモン・シネック著『WHYから始めよ!』(日本経済新聞出版)
本記事は Future Series:これからの社会と共創の未来 の一部です。