Future Series 第1回:私たちの社会はいまどこにいるのか – 変化の地図を読む

成果主義のその先を探し始めた社会

近年、あらゆる場面でよく聞く言葉があります。「チーム力」「共創」「ウェルビーイング」「ダイバーシティ」。これらは単なるトレンドワードではなく、社会全体が成果主義一辺倒だった時代のその先を真剣に模索していることの現れです。

興味深いのは、これがあらゆる領域で同時に起きていることです。企業では「従業員エンゲージメント」や「ウェルビーイング経営」が注目され、公共機関では「市民参加型の政策形成」や「協働のまちづくり」が推進され、教育現場では「協働学習」や「多様性の尊重」が文科省の方針として強調されている。社会のあらゆる場面で、従来の「上から下への指示」や「個人の成果重視」から、何か新しい形を求める動きが見られます。

しかし、同時に多くの人がこんな体験をしているのではないでしょうか。「以前はもっと気軽に話せていたのに…」。コンプライアンスへの配慮、ハラスメント防止、多様性への尊重など、考慮すべきことが格段に増えました。進歩的で素晴らしい変化のはずなのに、なぜか日常のコミュニケーションに以前より気を遣うようになった。何気ない会話でも「これは適切な表現だろうか」と立ち止まる。

この一見矛盾する現象には、実は明確な理由があります。私たちは今、社会そのものの大きな転換期にいるのかもしれません。


社会変化を理解するための「5つの色」

この社会変化を理解するために、組織論の名著『Reinventing Organizations』(フレデリック・ラルー著)の考え方が非常に参考になります。これは組織に関する理論ですが、考えてみれば組織も社会も、基本は「人が集まって何かを成し遂げようとする」という同じ構造です。職場という小さな集まりも、地域コミュニティという中規模の集まりも、社会全体という大きな集まりも、スケールは違えど人と人の繋がり方のパターンは共通しているのではないでしょうか。

サワモト式では職場の色分けの際に参考にさせていただいているこの理論では、人類社会の進化を5つの段階に分類し、それぞれを色で表現しています。これは単なる理論ではなく、私たちの社会が現在どの地点にいて、どこに向かっているのかを理解するための実用的な地図として活用できます。

少し私の解釈も加えて解説します。

レッド(衝動型):力による秩序

最も原始的な社会形態で、強力なリーダーが恐怖と力によって集団を統制します。部族社会やマフィア組織がこれにあたりますが、現代でもワンマン経営者やカリスマ的指導者が絶対的権力を持つ組織、さらには独裁的な政治体制にもこの特徴が見られます。意思決定は速いですが、持続性に欠ける傾向があります。

アンバー(順応型):階層と規則の世界

軍隊、宗教組織、伝統的官僚制度に代表される社会形態です。明確なヒエラルキーと厳格な規則によって秩序を保ち、役割と責任が固定されています。戦後復興期の日本社会や多くの伝統的企業がこの特徴を色濃く残しており、安定性と予測可能性を重視します。変化への適応は遅いものの、一度決まったことは確実に実行される強みがあります。

オレンジ(達成型):成果主義の時代

現代社会の主流となっている形態です。成果主義、KPI管理、イノベーション重視、競争での勝利を目指します。多くの現代社会がこのモデルを基盤としており、「結果を出せば評価される」「努力すれば報われる」という明確な価値観を持っています。

昭和の時代を思い出してみてください。「勉強ができて、運動もできて、リーダーシップもある」そんな「スター」を目指すことが当然とされていました。私たちの多くはこのオレンジの価値観の中で育ち、個人の能力と成果で評価される社会に慣れ親しんできました。しかし平成に入り、「個性重視」「多様な価値観」といった新しい考え方が台頭し、社会全体が価値観の転換期を迎えています。

効率性と成長を追求する一方で、格差拡大や精神的な疲弊といった副作用も生んでいます。

グリーン(多元型):多様性と共感の重視

価値観の多様性を認め、すべてのステークホルダーの声に耳を傾ける社会です。個人の幸福、環境への配慮、社会的責任を重視し、合意形成を通じた意思決定を行います。

特に「ダイバーシティ(多様性)」の実現は、グリーン社会の核心的要素です。異なる背景、価値観、能力を持つ人々が共に働き、共に生活する社会を目指しますが、これは理想と現実の間に最も大きなギャップが生まれる領域でもあります。多様性は豊かさをもたらす一方で、コミュニケーションの複雑化、合意形成の困難さといった新たな課題も生み出すのです。

イメージとしては「強い部活動」のような感じでしょうか。全国大会を目指すという目標に向かって、メンバー全員が一致団結する。個人の成績よりも全体の調和と成果を重視し、みんなの意見を聞きながら進んでいく。一部の先進的な企業や地域コミュニティでこの特徴が見られますが、社会全体でグリーンを実現している例は実は非常に稀なのです。

ティール(進化型):自己組織化する未来

階層構造を持たず、個人が自律的に判断し行動する社会です。目的に向かって有機体のように進化し続け、外部環境の変化に自然に適応します。

これは「救急のER(緊急救命室)」をイメージしてみてください。「命を救う」という明確な目的のもと、医師も看護師も技師も、誰かの指示を待つことなく、それぞれの専門性を活かして自律的に動く。その瞬間に最適な判断ができる人が、階層に関係なく決断し行動する。まだ実験段階の社会形態ですが、一部のコミュニティや革新的組織で試みられています。


現在地:オレンジからグリーンへの移行期

多くの社会領域が今、オレンジ(達成型)からグリーン(多元型)への移行期にあります。

オレンジ時代の特徴:

  • 明確な成果指標による評価
  • 競争を通じた成長
  • 効率性の最大化
  • ある程度共有された「常識」や価値観

グリーン時代への移行で求められるもの:

  • 多様な価値観への配慮
  • 包摂性(インクルージョン)の実現
  • 持続可能性への責任
  • 合意形成による意思決定

この移行期における最大の特徴は、「単一の正解」から「複数の正解の共存」へのシフトです。以前なら「経済成長」という一つの明確な指標で判断できたことが、今では「経済」「環境」「社会貢献」「個人の幸福」など、時として相反する複数の価値を同時に追求することが求められています。

これが、冒頭で触れた「話しにくさ」の正体かもしれません。正解が複数あり、しかも日々アップデートされる世界では、コミュニケーションの複雑さが格段に増すのは自然なことなのです。


歴史的視点で見る変化の自然さ

重要なのは、現在の変化を歴史的な文脈で理解することです。

産業革命後、私たちは農業中心の社会から工業中心の社会への移行に戸惑いました。20世紀末のインターネット革命でも、デジタル技術の普及により、コミュニケーション、商取引、情報収集の方法が劇的に変化しました。

現在のオレンジからグリーンへの移行も、こうした歴史的変化の延長線上にあります。人類は常に、より複雑で高度な社会形態を模索し続けてきたのです。

理想的なグリーン社会を実現するのは想像以上に困難で、多くの先進的コミュニティでも、グリーンの要素を部分的に取り入れている段階です。つまり、誰もが手探りで新しい関わり方、新しい社会のあり方を模索している状況なのです。

この認識は、私たちにとって救いでもあります。完璧を求める必要はなく、段階的に学習し、適応していけばよいのです。


次回への展望:グリーン社会の実像

第2回では、多くの人が理想として思い描く「グリーン社会」の実際の姿について深く掘り下げます。理想として語られることが多いグリーン社会ですが、実際に実現しようとすると見えてくる課題や複雑さがあります。

なぜ理想的なグリーン社会の実現が困難なのか、そして来るべきグリーン社会は私たちにどのような体験をもたらすのか。まだ誰も完全には経験したことのない社会について、特にダイバーシティがもたらす豊かさと複雑さの両面を中心に、具体的な事例とともに考察していきます。

コラム:あなたの周りの社会を色分けしてみませんか?

あなたが日常的に関わっている様々なコミュニティを思い浮かべてみてください。職場の組織はどの「色」でしょうか。そして、実際に働いているチームは?地域のコミュニティでの関わり方は?家族との関係は?趣味の仲間との繋がりは?

人は複数のコミュニティに同時に属していますが、それぞれで異なる「色」の関係性を持っていることに気づくはずです。そして、グリーンへの移行過程で、それぞれの場面でどのような変化や課題を感じているでしょうか。

この変化は避けられない社会の流れです。重要なのは、変化を恐れるのではなく、その本質を理解し、それぞれのコミュニティにおいて適切に対応していくことです。


参考文献・関連資料

  • フレデリック・ラルー著『Reinventing Organizations』(英治出版)
  • 文部科学省「主体的・対話的で深い学び」に関する指導要領
  • 経済産業省「健康経営・ウェルビーイング経営の推進」

本記事は Future Series:これからの社会と共創の未来 の一部です。

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