第7回:30年の変化が教えてくれること – デジタルツールが変えた働き方

「○○さん、3番にお電話です」

「今、FAX送りました。到着していますでしょうか?」

「その件、CCに入れておいてね」

「働き方改革、うちも始めないと」

「○○さん、ミュート解除してください」

「ハンコを押すために出社する意味って…」

「ChatGPTに聞いてみた?」


こんなフレーズ、あなたの職場にもありませんでしたか?

この30年、私たちはいくつもの「仕事の当たり前」を更新してきました。身の回りのITツールが変わり、仕事のプロセスが変わり、職場の文化が変わる。その繰り返しの中で、戸惑いながらも、少しずつ適応してきました。

この連載の最終回では、30年の変化を俯瞰しながら、「変わったこと」と「変わらなかったこと」を振り返ります。


30年を一望する

この連載では、1990年代から2020年代までの変化を、「ツール×プロセス×文化」の視点でたどってきました。

改めて、一覧にしてみます。

時代ツール業務プロセス職場文化
1990年代携帯電話、FAX、内線電話、PC到来紙の稟議、対面報告上意下達、根回し
2000年代メール、グループウェアひとり一台PC、CC文化情報過多、でも紙に戻る
2010年代クラウド、スマホ、チャットどこでも仕事常時接続、でも職場文化は変化せず
2020-2022年Zoom、Teams、電子署名強制されたリモートワークハイブリッドワークの定着
2023年〜生成AI、AIエージェントAIと共に作る効率化の先の問い

こうして並べてみると、あるパターンが見えてきます。

ツールは常に先に進む。プロセスは徐々に追いつく。(職場)文化がもっとも変わりにくい。

でも、(職場の)文化もいずれ変わります。それが30年の歴史が教えてくれることです。


変化は「いつか」ではなく「突然」やってくる

30年を振り返ると、変化には興味深いパターンがありました。

「いつかはリモートワークが当たり前になる」──2010年代、多くの人がそう言っていました。でも、なかなか進まなかった。

「いつかはハンコがなくなる」──これも何年も言われ続けていました。でも、変わらなかった。

ところが、2020年。コロナ禍という「外圧」によって、10年分の議論が3ヶ月で実現しました。

振り返れば、大きな変化には常に「きっかけ」がありました。

  • 2011年 東日本大震災 → BCP意識の高まり、クラウド化の加速
  • 2020年 コロナ禍 → 強制的なリモートワーク、電子署名の普及
  • 2022年 ChatGPT登場 → AI時代の幕開け

変化は「いつか来る」と言われながら、なかなか来ない。でも、きっかけがあると一気に進む。

そして気づくのです。「できない」と思っていたことの多くは、時代の背景が変わると、自然と受け入れられていったのだと。

2011年 東日本大震災
→ BCP意識の高まり、クラウド化の加速

2020年 コロナ禍
→ 強制的なリモートワーク、電子署名の普及

2022年 ChatGPT登場
→ AI時代の幕開け

変化は「いつか来る」と言われながら、なかなか来ない。
でも、きっかけがあると一気に進む。

そして「できない」と思っていたことの多くは、
時代の背景が変わると、自然と受け入れられていった

「ハンコがないと契約できない」と思っていた。でも、実際にやってみたらできた。「対面じゃないと信頼関係は築けない」と思っていた。でも、オンラインでも築けた。

時代の背景が、私たちの「当たり前」を揺さぶったとき、初めて「本当に必要なこと」と「慣習に過ぎなかったこと」の違いが見えてきます。


変わったこと、変わらなかったこと

では、30年で何が変わり、何が変わらなかったのでしょうか。

変わったこと

  • 働く「場所」: オフィスに毎日通うのが当たり前だった時代から、どこでも仕事ができる時代へ。自宅、カフェ、コワーキングスペース。場所の選択肢が広がりました。
  • 働く「時間」: 定時出社、定時退社。タイムカードを押す働き方から、フレックスや裁量労働へ。「いつ働くか」の自由度が高まりました。
  • ツール: 紙とペン、電話やFAXから、クラウドとAIへ。情報の流れは階層的なものからフラットなものへと変わりました。
  • コミュニケーション: 対面と電話が中心だった時代から、チャットやビデオ会議が日常に。非同期のコミュニケーションも当たり前になりました。
  • 組織のあり方: かつては「上司の承認がないと動けない」のが当たり前でした。でも今は、チャットで直接やり取りし、必要な情報に誰でもアクセスできる。組織はよりフラットになり、意思決定のスピードも変わりました。

変わらなかったこと

一方で、30年経っても変わらないものがあります。

  • 人間関係の重要性: ツールがどれだけ進化しても、信頼関係を築くことの大切さは変わりません。むしろ、オンライン中心になったことで、その重要性が再認識されています。
  • 信頼の築き方: 約束を守る、誠実に対応する、相手の立場を考える。信頼を得るための本質は、時代が変わっても同じです。
  • 「なぜ働くか」という問い: 生活のため、自己実現のため、社会貢献のため。働く意味を問う気持ちは、いつの時代も私たちの中にあります。
  • 変化への抵抗感: 新しいツールが登場するたびに、「前の方が良かった」という声が上がります。でも、振り返れば、いつも慣れてきました。

ツールは、私たちの「間」に入ってきている

30年のツールの変化を振り返ると、ある流れが見えてきます。

郵便やFAXは、メールに置き換わりました。 電話や携帯電話は、チャットアプリに置き換わりつつあります。

これらの変化には共通点があります。ツールが、人と人の「間」に入り、コミュニケーションをサポートしてきたということです。

そして今、AIが私たちの業務の「間」に入り込んできています。

これらの変化には共通点があります。
ツールが、人と人の「間」に入り、
コミュニケーションをサポートしてきた
ということです。

そして今、AIが私たちの業務の
「間」に入り込んできています。

これまでのツールは、「手を動かす」ことをサポートしてきました。文字を打つ、情報を送る、ファイルを共有する。

AIは、その一歩先に来ています。「考える」ことをサポートし始めているのです。

文章の下書きを作る。データを分析してパターンを見つける。アイデアの壁打ち相手になる。


本来やりたかった仕事へ

ここで、一つの問いが生まれます。

AIが「裏方の仕事」を担えるようになったとき、私たちは何をするのでしょうか?

議事録を取る、資料を整える、データを集計する、定型メールを書く。こうした「やらなければいけないけれど、本当にやりたいわけではない仕事」が、AIに任せられるようになりつつあります。

これは、脅威でしょうか?

私は、そうは思いません。

むしろ、「本来やりたかった仕事」に向き合えるチャンスだと思うのです。

お客様の課題を解決すること。 チームで何かを作り上げること。 新しいアイデアを形にすること。 人の成長を支えること。

入社したとき、憧れていた「その仕事」。でも、日々の業務に追われて、なかなか向き合えなかった「その仕事」。

AIが裏方を担ってくれるなら、私たちは「本来やりたかったこと」に、もっと時間を使えるようになるのかもしれません。


これからの10年を見据えて

これからの10年で、何が起きるでしょうか。

正直に言えば、誰にもわかりません。

2年前、ChatGPTがここまで急速に普及すると予測できた人は、ほとんどいなかったでしょう。5年前、コロナ禍がリモートワークをこれほど加速させると想像できた人も少なかったはずです。

だからこそ、「予測」よりも「備え」が大切なのだと思います。

確実に言えること:

  • 変化は続く
  • AIはさらに私たちの業務の「間」に入ってくる
  • 「人間がやるべきこと」の定義は変わり続ける

でも、同時に:

  • 私たちは変化に適応してきた
  • これからも、適応していける
  • 変化の中でも、変わらない本質がある

30年の歴史を振り返ると、私たちは常に変化の中にいました。身の回りのITツールが変わり、仕事のプロセスが変わり、職場の文化が変わる。その繰り返しの中で、戸惑いながらも、少しずつ適応してきました。

今回のAIの波も、その延長線上にあるのではないでしょうか。


時代のアップデートは特別なことではない

「ワープロを使うと漢字が書けなくなる」

「電卓を使うと計算ができなくなる」

「AIを使うと考えられなくなる」

新しいテクノロジーが登場するたびに、こうした声が上がります。いつの時代も。

でも、時代の背景が変わると、優先すべきことも変わります

今さら、そろばんで仕事をする人を求める会社はありません。それは私たちが「バカになった」からではなく、優先すべきことが変わったからです。

1990年代に電話やFAXが当たり前だった人も、2000年代にメールに戸惑った人も、今では自然に新しいツールを使っています。

新しいものを使うことを恐れる必要はありません。

新しいものを使うことは、時代に合った選択をしているだけです。

大事なのは、「何が本当に必要で、何がいま必要でなくなったのか」を見極めること。そして、変化の中でも変わらない本質を見失わないことだと思います。


「デジタルツールが変えた働き方」シリーズを、全7回読んでいただきありがとうございました。

1990年代の電話やFAXから、2020年代の生成AIまで。30年の変化を振り返る旅でした。

私たちのアップデートは続きます。でも、それでいいのだと思います。

私たちは「当たり前」をアップデートしながら生きてきました。これからも、そうやって生きていきます。

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