第1回:30年の変化を俯瞰する – デジタルツールが変えた働き方

朝イチ、コピー機が動き出す

朝イチ、コピー機が動き出す。

最近入社した新人が「FAXだ」と気づき、出力トレイに向かう。取引先からの注文書だ。紙を手に取り、上司のデスクへ運んでいく。

こんな光景、あなたの会社にもありませんでしたか?

実はこれ、今でも多くの企業、特に製造業や物流業の約半数で続いている日常です※1。「古い」と言われながらも、FAXは消えていません。確実に届く。紙で残る。操作が簡単。そんな理由で、今日も現役で働いています。

一方で、同じオフィスの別の部署では、TeamsやSlackのチャットで瞬時に情報が飛び交い、クラウド上のファイルを複数人が同時編集している。ハンコを押すために出社することもなくなり、契約書は電子署名で完結する。

この30年で、私たちの働き方は驚くほど変わりました。でも同時に、変わっていないものもあります。

このシリーズで見ていくこと

今回から始まるこのシリーズでは、少し時間をかけて、「ツールと働き方の変化」を振り返っていきます。

なぜ今、古い話を?

それは、過去を知らないと、今が見えないからです。

DXという言葉が当たり前になった今、多くの企業が「デジタル化」に取り組んでいます。でも、現場では思うように進まない。新しいツールを導入しても使われない。結局、昔のやり方に戻ってしまう。

なぜでしょうか?

それは、ツールだけの問題ではなく、「人々の働き方や意識」が追いついていないからです。

考えてみてください。

FAXが登場したとき、「紙が瞬時に届く!」と驚いた人たちがいました。でも同時に、「本当にちゃんと届いているのか?」と不安に思う人もいた。

メールが普及したとき、「一斉送信できて便利!」と喜んだ人たちがいました。でも同時に、「CCに誰を入れるべきか?」と悩む人も増えた。

チャットツールが入ったとき、「リアルタイムで話せる!」と感動した人たちがいました。でも同時に、「常につながってる感じが疲れる…」と感じる人も出てきた。

ツールが変わるたびに、私たちは試行錯誤しながら、新しいやり方を自分たちのものにしてきたのです。

このシリーズでは、そんな変化を、時代ごとに丁寧にたどっていきます。1990年代から現在まで、各時代のツールを軸にしながら、当時の業務プロセスと、そこに宿っていた職場文化を見ていきます。

懐かしいと感じる方もいれば、「そんな時代があったのか」と驚く方もいるでしょう。どちらの方にも、今のDXを理解するヒントを持ち帰っていただけるはずです。


30年の変化を一望してみる

まずは、全体像を眺めてみましょう。この30年で、働く現場はどう変わってきたのか。

時代この時代に普及したツール業務プロセスの特徴職場文化・職場の雰囲気
1990年代FAX・ワープロ・内線電話・ポケベル・携帯電話/PHS紙の稟議書が机を巡る/対面での報告が基本「上司のハンコをもらうまで動けない」「根回しが仕事のうち」──序列と手順を重んじる空気
2000年代メール・社内サーバー・グループウェア・ユニファイドコミュニケーション一斉送信で情報共有が爆発/文書はサーバーに保存「とりあえずCCに入れておく」「メールの山に埋もれる」──責任の所在を明確にしたい不安
2010年代クラウド化の始まり・スマホ・チャットツールサーバーからクラウドへの移行/場所を選ばない働き方「常につながっている感覚」「即レスが当たり前」──スピード重視と疲労の両立
2020年代完全クラウド移行(Zoom/Teams/Slack)・AI・RPA非同期コミュニケーション+自動化/リモート前提「信頼ベースで働く」「成果で評価」──心理的安全性と文化の再設計が課題に

この表を見ると、ツールが進化するたびに、働き方の前提が少しずつ変わってきたことがわかります。

1990年代には「上司のハンコがないと動けない」のが常識でした。でも今は、ハンコそのものが消えつつあります。

2000年代には「メールに全員をCCに入れる」のが安全策でした。でも今では、チャットで必要な人だけに伝える方が効率的とされています。

ツールが変わるたびに、私たちは試行錯誤しながら、新しいやり方を自分たちのものにしてきたのです。


なぜ今、過去を振り返るのか

2020年代、私たちは新しいツールの時代に入りました。それがAIです。

これまでのツールは、「手を動かす作業」を助けるものでした。計算を速くする、文書を共有する、会議をオンラインでつなぐ。

でも、AIは違います。

AIは「考える」部分にまで入り込んできています。情報を集めて整理し、データを分析し、文章にまとめ、意思決定の材料を提示してくれます。

つまり、ツールはもう単なる業務効率化の道具ではなく、人の判断や創造のプロセスにまで関わる存在になったのです。

AIは「考える」部分にまで入り込んできています。情報を集めて整理し、データを分析し、文章にまとめ、意思決定の材料を提示してくれます。

つまり、ツールはもう単なる業務効率化の道具ではなく、人の判断や創造のプロセスにまで関わる存在になったのです。


だからこそ、今この瞬間に、過去を振り返る意味があります。

これまでの30年間、ツールが変わるたびに、私たちは戸惑い、抵抗し、そして少しずつ受け入れてきました。その歴史を知ることは、これから訪れる変化にどう向き合うべきかのヒントになります。

変わるものと、変わらないもの。

その境界線を見極める力は、過去の変化を丁寧にたどることでしか得られません。

1990年代へ

デスクには内線電話、「3番、外線です」と呼ばれて受話器を取る。稟議書は紙で回覧され、FAXが一日中鳴り響く。「パソコンが使える」というだけで、ちょっと特別な存在だった頃。

机の上には、分厚い電話帳。引き出しには、名刺の束。会議室には、ホワイトボードと、OHPのフィルム。

次回は、そんな1990年代の働き方を、詳しく見ていきます。

知っている方には懐かしく、知らない方には新鮮な発見があるはずです。

では、また次回。


※1 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)2022年調査。勤務先でFAXを使用している人は約46%。
参照:https://www.ciaj.or.jp/pressrelease2023/8958.html

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