第6回:2023年〜、生成AIがやってきた – デジタルツールが変えた働き方
2022年12月。
「ねえ、ChatGPT使ってみた?」
コロナ禍で変わった働き方に、 もう一つの波がやってきました。
AIが、文章を書く。 AIが、コードを書く。 AIが、アイデアを出す。
「これ、自分の仕事じゃん」
そう思った人は、少なくなかったはずです。
そして2024年、2025年。 AIは「質問に答える」だけでなく、 「自律的に動く」存在へと進化し始めています。
コロナ禍が「働く場所」を変えたなら、 生成AIは「働くこと自体」を 問い直そうとしているのかもしれません。
何が起きているのか──加速する変化
2022年11月30日、OpenAIがChatGPTを公開しました。

2022年11月30日、
OpenAIがChatGPTを公開しました。
わずか2ヶ月で1億ユーザーを突破。
TikTokが9ヶ月、Instagramが2年半かかった記録を、
あっという間に塗り替えました。
わずか2ヶ月で1億ユーザーを突破。TikTokが9ヶ月、Instagramが2年半かかった記録を、あっという間に塗り替えました。
「AIが人間のように会話できる」
その衝撃は、瞬く間に世界中に広がりました。
2023年になると、企業での生成AI活用が本格化します。一方で、「業務での使用禁止」を打ち出す企業も現れました。機密情報の漏洩リスク、著作権の問題、出力の正確性への懸念。新しい技術に対する期待と警戒が入り混じった時期でした。
2024年、状況はさらに動きます。ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot…複数の生成AIが競い合い、急速に進化していきました。そして「AIエージェント」という新しい概念が登場します。質問に答えるだけでなく、自律的にタスクを実行するAI。リサーチをして、ファイルを操作して、予約を取って。人間が細かく指示しなくても、AIが自分で考えて動く時代が始まろうとしています。
2025年現在、もはや「生成AIを使うか使わないか」という議論は過去のものになりつつあります。問われているのは「どう使うか」「何に使うか」「どこまで任せるか」。
ツールの進化が、ついに「人の仕事とは何か」を問い始めました。
ツール──「AIに聞く」という新しい選択肢
生成AI(ChatGPT、Claude、Copilotなど)
「ちょっと調べたいことがあるんだけど」
以前なら、Google検索でいくつものサイトを開いて情報を集め、自分で整理していました。今は、生成AIに質問すれば、数秒で回答が返ってきます。
文章を書くときも変わりました。企画書の下書き、メールの文面、報告書の構成案。「まずAIに聞いてみる」が、多くの人にとって当たり前の選択肢になりました。
翻訳も劇的に変わりました。英語の資料を読むとき、海外の取引先にメールを送るとき。以前は翻訳サイトを使っても不自然な日本語に手を入れる必要がありましたが、今は自然な訳文がすぐに手に入ります。
プログラミングの世界では、GitHub Copilotのようなコード補完AIが普及しました。コードを書きながらAIが次の行を提案してくれる。エラーが出たらAIに聞けば原因と解決策を教えてくれる。「プログラマーの仕事が変わる」と言われた理由がここにあります。
業務特化型AIツール
生成AIの登場をきっかけに、特定の業務に特化したAIツールも次々と現れました。
会議の議事録作成。以前は誰かがメモを取り、後で清書して共有していました。今は、AIが会議の音声を文字起こしし、要点をまとめ、アクションアイテムを抽出してくれます。会議中は議論に集中し、終わったら議事録が完成している。そんな世界が現実になりました。
画像生成AIも話題になりました。プレゼン資料のイメージ画像、SNS投稿用のビジュアル、製品コンセプトのスケッチ。デザイナーでなくても、言葉で指示すれば画像を作れる時代。「クリエイティブの民主化」とも言われました。
カスタマーサポートの現場では、AIチャットボットが一次対応を担うケースが増えています。よくある質問には自動で回答し、複雑な問い合わせだけを人間のオペレーターにつなぐ。24時間対応が可能になり、顧客体験も向上しました。
AIエージェントの登場
2024年後半から、「AIエージェント」という言葉を耳にする機会が増えました。
従来の生成AIは「質問→回答」の一往復が基本でした。聞かれたことに答える。指示されたことをやる。それ以上のことはしません。
AIエージェントは違います。「この案件について調べて、関連資料をまとめて、レポートを作成して」と指示すれば、AIが自律的に複数のステップを実行します。Webを検索し、情報を整理し、文章を書き、ファイルを保存する。人間が細かく指示しなくても、AIが自分で判断しながらタスクを進めていく。
市場調査によれば、AIエージェントの市場規模は2024年に約51億ドル(約7,650億円)。2030年には471億ドル(約7兆円)に達すると予測されています。年平均成長率は45%近くと、驚異的な成長が見込まれています。「自律的に働くAI」は、もはや未来の話ではありません。
「人間が指示を出す」という前提そのものが、変わり始めています。
プロセス──仕事の「やり方」が変わった
劇的に短縮された作業
生成AIの登場で、いくつかの作業は劇的に短縮されました。
下調べ・情報収集。以前は数時間かけて複数のサイトを回り、情報を集めて整理していた作業が、数分で完了するようになりました。もちろん、AIの回答をそのまま信じるわけにはいきません。事実確認は必要です。でも、「とっかかり」を得るスピードは比較にならないほど速くなりました。
文章の初稿作成も変わりました。「自分で一から書く」から「AIと一緒に作る」へ。AIに下書きを作らせ、それを人間が編集・加筆する。このスタイルが、多くの職場で広がっています。
会議の準備・振り返りにもAIが入り込んでいます。会議の前にAIが関連資料を要約し、論点を整理してくれる。会議の後は議事録を自動作成し、次のアクションを提案してくれる。「会議のための会議」が減った、という声も聞かれます。
新しいスキル
一方で、新しいスキルが求められるようになりました。
プロンプトエンジニアリング。AIに何をどう聞くか、どう指示するか。同じ質問でも、聞き方次第で返ってくる答えの質が大きく変わります。「AIを使いこなすスキル」が、新しい能力として認識されるようになりました。
AIの出力を「編集する」力。AIが作った文章をそのまま使う人は、実はあまりいません。AIの出力をたたき台にして、人間が手を入れて仕上げる。このとき必要なのは、「何が良くて何が足りないか」を判断する目です。
「何を聞くか」を考える力。AIは万能ではありません。何を聞けば有用な答えが得られるか。どこまでAIに任せて、どこから人間がやるべきか。この切り分けができる人とできない人で、生産性に差が出るようになりました。
変わっていないこと
ただし、変わっていないこともあります。
最終判断は、やはり人間がします。AIが出した提案を採用するかどうか、AIが書いた文章を発信するかどうか。責任を取るのは人間です。
創造性の核心部分、つまり「なぜそれをやるのか」「何を伝えたいのか」を決めるのも人間です。AIは「どう書くか」の部分では力を発揮しますが、「何を書くか」「なぜ書くか」は人間が決めなければなりません。
人間関係の構築も、AIには代替できない領域です。信頼を築く、共感する、励ます。これらは今のところ、人間にしかできないことです。
職場文化──「AIを使うのは手抜き?」から「使わないのは非効率」へ
意識の変化
生成AIが登場した当初、こんな議論がありました。
「AIで書いた文章を提出するのは、ズルじゃないか」 「自分で考えないで、AIに頼るのは手抜きでは」
学校ではレポートのAI利用が問題になり、企業でも「AIが書いた文章かどうか」を気にする空気がありました。
でも今、その議論は落ち着きつつあります。
電卓を使うことを「手抜き」とは言いません。Excelで計算することを「ズル」とは言いません。生成AIも同じ。道具は道具。使いこなすのが当たり前、という認識が広がっています。

「AIで書いた文章はズルじゃないか」
そんな議論もありました。
でも今、その議論は落ち着きつつあります。
電卓を「手抜き」とは言わない。
Excelを「ズル」とは言わない。
生成AIも同じ。道具は道具。
使いこなすのが当たり前、という認識が広がっています。
むしろ今は、「AIを使わないのは非効率」という声も聞かれます。AIで1時間短縮できる作業を、わざわざ手作業でやる必要があるのか。その時間を、もっと価値のある仕事に使うべきではないか。
世代間の変化
興味深いのは、世代間の「逆転現象」です。
これまでのデジタルツールでは、若手が使いこなし、ベテランが苦手とする傾向がありました。でも生成AIでは、少し様子が違います。
若手の中には、AIに頼りすぎて基礎力がつかない、という指摘もあります。一方、ベテランの中には、長年の経験とAIを組み合わせて、独自の使い方を編み出す人もいます。
結局のところ、大事なのは「AIを使えるかどうか」ではなく、「AIと自分の能力をどう組み合わせるか」なのかもしれません。
組織としての対応
多くの企業が、AIガイドラインの策定に動きました。
「業務で生成AIを使っていいのか」 「機密情報を入力していいのか」 「AIが書いた文章をそのまま外部に出していいのか」
当初は「禁止」の方向で動いた企業も、次第に「ルールを決めて活用」へとシフトしています。使わないことのリスクより、使わないことで競争力を失うリスクの方が大きい。そう判断する企業が増えています。
そして、リストラの波
この時期、もう一つ見逃せない動きがありました。
2023年から2024年にかけて、GoogleやMicrosoft、Metaといった大手テック企業が、大規模な人員削減を発表しました。
驚くべきことに、多くの企業は黒字でした。業績が悪化したから人を減らすのではない。では、なぜか。
いくつかの理由が挙げられています。
一つは、コロナ禍で採用しすぎた人員の調整。パンデミック中、IT需要が爆発的に伸び、各社は大量採用に走りました。その揺り戻しが来た、という説明です。
もう一つは、AI投資への原資確保。生成AIの開発・導入には莫大な費用がかかります。その費用を捻出するために、人件費を削る。経営判断として、人よりAIに投資する選択をした、ということです。
そして、効率化の追求。AIで代替できる業務が増えれば、その分人員は必要なくなる。これは単純な話ですが、現実として起きています。
日本企業にも広がる早期退職の波
この動きは、海外だけの話ではありません。
東京商工リサーチの調査によれば、2024年に「早期・希望退職」を募集した上場企業は57社、約1万人。前年の41社、3,161人から大幅に増加しました。1万人を超えるのは3年ぶりです。
注目すべきは、募集企業の約6割が黒字企業だったこと。業績不振による人員削減ではなく、「体力のあるうちに構造改革を進める」という判断です。
資生堂、オムロン、日産自動車、富士通、第一生命ホールディングス…。日本を代表する大手企業が次々と早期退職プログラムを発表しています。
2025年に入っても、この傾向は続いています。1月から5月までの募集人数は8,711人で、前年同期比で約2倍に増加。電気機器業界が特に多く、製造業を中心に構造改革が進んでいます。
東京商工リサーチは「2025年も上場企業の早期・希望退職募集が加速する可能性が高い」と分析しています。
この動きがAIと直接関連しているかどうかは、まだはっきりしません。ただ、「変化する世界経済への対応」「新規分野への進出」「既存分野の縮小・撤退」といった理由の背景に、AI時代への備えがあることは否定できないでしょう。
「AIに仕事を奪われる」という懸念が、一部では現実になり始めています。
では、早期退職した人たちはどこへ行くのか。何をするのか。この問いに対する明確な答えは、まだありません。

「AIに仕事を奪われる」という懸念が、
一部では現実になり始めています。
では、早期退職した人たちはどこへ行くのか。何をするのか。
この問いに対する明確な答えは、まだありません。
次回予告
1990年代から2020年代まで、 30年以上の変化を見てきました。
FAXからメールへ。 メールからチャットへ。 オフィスからリモートへ。 そして、AIとの共働へ。
ツールは変わり続けました。 プロセスも変わりました。 文化も、少しずつ変わりました。
では、この30年の変化は、 私たちに何を教えてくれるのでしょうか?
AIに仕事を奪われるのか。 AIと共に働くのか。 そもそも、働くとは何なのか。
次回、最終回。
連載「デジタルツールが変えた働き方」は、 30年の変化を俯瞰し、 これからの働き方を一緒に考えます。
引用・参考資料
- ChatGPTユーザー数:UBSリポート(2023年2月)、日経ビジネス「史上最速で利用者1億人突破のChatGPT、焦るグーグル「破壊」の危機」
- AIエージェント市場規模:Grand View Research「AI Agents Market Size, Share & Trends Analysis Report 2024-2030」、MarketsandMarkets調査
- 日本企業の早期退職:東京商工リサーチ「早期・希望退職者募集」調査(2024年、2025年)
- 日本企業の黒字リストラ:Bloomberg「黒字でもリストラに着手、変わる日本企業」(2025年1月)
- 野村総合研究所「日本のChatGPT利用動向(2023年4月時点)」