第5回:2020-2022年、コロナ禍が一夜で変えた働き方 – デジタルツールが変えた働き方
2020年3月。
「明日から、全員在宅勤務です」
えっ、明日から? 自宅で仕事なんて、できるの?
会議はどうする? 稟議書のハンコは? 取引先との商談は?
戸惑いながらも、私たちは一夜で働き方を変えました。
ZoomやTeamsをインストールし、自宅のWi-Fiを確認し、リビングの一角に「仕事スペース」を作る。
「3年分のDXが、3ヶ月で進んだ」
そう言われた2020年から2022年。10年かけて議論してきたことが、パンデミックという強制力によって、一気に現実のものとなったのです。
時代背景──パンデミックが強制した変革
2020年3月、日本政府は初めての緊急事態宣言を発出しました。
満員電車に乗れない。オフィスに集まれない。「出社が当たり前」という前提が、一夜にして崩れ去りました。
東京都のテレワーク実施率は、2020年3月に一気に6割を超えました。 前年まで2割程度だったことを考えると、驚異的な変化です。
でも、実はこの変化には布石がありました。

満員電車に乗れない。オフィスに集まれない。「出社が当たり前」という前提が、
一夜にして崩れ去りました。
東京都のテレワーク実施率は、2020年3月に一気に6割を超えました。
前年まで2割程度だったことを考えると、驚異的な変化です。
でも、実はこの変化には布石がありました。
2009年の新型インフルエンザ(H1N1)。 多くの企業が初めて「パンデミック対策」を真剣に考えた瞬間でした。在宅勤務の試験運用、VPN環境の整備…一部の企業が動き始めました。
そして2011年の東日本大震災。 交通網が麻痺し、計画停滞でオフィスに行けない日が続きました。「オフィスに行けなくても業務を続ける」必要性を、多くの企業が痛感しました。
この2つの経験から学んだ企業は、クラウド化やリモートアクセスの整備を少しずつ進めていました。
だから、2020年のコロナ禍で「なんとか対応できた」のです。
準備していなかった企業は、大混乱でした。VPN接続がパンク。社内サーバーにしかないファイルにアクセスできない。自宅にノートPCすらない社員も多かった──。
それでも、やるしかありませんでした。
ツール──画面の中の会議室、ハンコのない契約書
ZoomとTeamsが変えた「会議」
2019年まで、Web会議ツールを日常的に使っている人はどれだけいたでしょうか。
2020年3月、状況は一変します。
ZoomとMicrosoft Teamsが、一気に広がりました。Zoomは使いやすさで知名度を上げ、「Zoom飲み」という言葉まで生まれました。
Teamsは企業の現場で本格的な活用が始まりました。私は当時、Microsoftでこうした企業のTeams定着化支援に関わっていましたが、大手のお客様は既にSkype for BusinessからTeamsへの移行をほぼ完了されており、全社的な活用へと舵を切るタイミングになったと記憶しています。
つまり、ツールは準備されていました。コロナ禍は、それを一気に全社展開させる強制力になったのです。
最初は戸惑いの連続でした。
「あれ、マイクがミュートになってます」 「画面共有、どうやるんだっけ?」 「子どもが映り込んじゃった…」
それでも、すぐに慣れました。
変わったこと:
- 移動時間がゼロ。東京と大阪の会議が移動なしで
- 録画機能で議事録も簡単に
- 「ちょっと5分だけ参加」も可能に
新しい悩み:
- 1日中画面を見続ける「Zoom疲れ」
- 「カメラをオンにすべきか?」論争
- 通知が鳴り続ける「通知疲れ」
それでも、私たちはこう実感しました。
「画面越しでも、仕事はできる」
ハンコ出社からの解放
2020年春、こんな光景がありました。
在宅勤務が続く中、稟議書にハンコを押すためだけに出社する社員。 この光景が、SNSやニュースで「ハンコ出社」として取り上げられ、社会問題化しました。
2020年9月、河野太郎大臣(当時)が「99%の押印は廃止可能」と発言。民間企業でも、電子契約への移行が一気に加速します。
GMOサインなどの電子契約サービスの導入企業数は、2020年から2021年の1年間で約5.7倍に成長しました。
契約締結が数日→数時間に。郵送費、印紙代も不要。リモートワークの大きな障壁が消えました。
日本企業が何十年も手放せなかった「ハンコ」。それを変えたのは、議論ではなく、パンデミックという現実だったのです。
クラウドが「当たり前」になった
2020年3月、多くの企業のIT部門は大混乱に陥りました。VPN接続がパンク。社内サーバーにしか保存されていないファイルにアクセスできない。
「会社に行かないと仕事ができない」
そんな前提で構築されていたITインフラの限界が、一気に露呈したのです。
既に導入していた企業ではクラウド活用が加速し、遅れていた中小企業も移行を決断しました。Microsoft 365、Google Workspace、Box、Dropbox…数週間でデータ移行や全社展開を進めていきました。
変わったこと:
- どこからでも働ける
- 「最新版はどれ?」という悩みが消えた
- 複数人が同時に同じファイルを編集
- 災害時でも業務継続可能に
オフィスという「場所」に依存しない働き方。2010年代に描いた理想が、2020年に現実になりました。
プロセス──「できない理由」が消えた瞬間
承認フローの劇的な変化
「一応システムで申請するけど、念のため紙でも回しておいて」
そんな「二重手間」が横行していました。
コロナ禍で、それが変わりました。出社できないのだから、紙は回せません。ワークフローシステムが、「あれば便利」から「なければ困る」必須ツールになりました。
決裁スピードも向上。上司が出張中でも、スマホから承認ボタンを押せる。数日かかっていた承認が、数時間で完了するようになりました。
会議文化の変革
Web会議が当たり前になって、会議のあり方そのものが変わりました。
「とりあえず集まる」会議が減少
会議招待を送る前に、「この会議の目的は何か?」を明確にする必要が出てきました。結果として、「目的のない会議」が減りました。

「とりあえず集まる」会議が減少
会議招待を送る前に、「この会議の目的は何か?」を
明確にする必要が出てきました。
結果として、「目的のない会議」が減りました。
会議時間が短縮
移動時間がゼロなので、「30分会議」「15分会議」が当たり前に。
録画機能の活用
会議を録画しておけば、後から見返せます。欠席者も、録画を見れば内容がわかります。
営業スタイルの転換
「足で稼ぐ」営業が、オンライン商談に変わりました。
最初は「これでは営業できない」と嘆く声もありました。でも、やってみると、意外とできた。
- 移動時間ゼロ→1日の商談件数が増える
- 全国、全世界の顧客と気軽に話せる
- 録画して社内で共有・研修に活用
「顔を見ないと信用できない」という常識が、少しずつ崩れていきました。
ただし、失ったものもあります。訪問時の「雑談」から得られる情報。世間話の中で見えてくる顧客の本音──そんな機会が減りました。
勤怠管理の再定義──「会社にいる時間」では評価できない
タイムカードを押して出社、定時に退社──そんな勤怠管理が、在宅勤務では通用しません。
クラウド勤怠システムが一気に普及しました。自宅のPCやスマホから、出勤・退勤を記録できるシステムです。
でも、新たな問題も生まれました。
「在宅勤務の人、ちゃんと働いてるの?」
そんな疑念です。オフィスにいれば、働いている「姿」が見えます。でも、画面の向こうでは何をしているかわかりません。
一部の企業では、PCの稼働状況を監視するソフトを導入するケースもありました。しかし、それは「監視」であって「信頼」ではありません。
多くの企業が気づき始めました。
「会社にいる時間」では、もう評価できない。「成果」で評価するしかない──。
成果主義、信頼ベースのマネジメントへ。その転換が、強制的に始まりました。
採用・人事の変化──地方在住者も、画面越しの新人も
新卒採用も、中途採用も、オンライン面接が標準になりました。
メリット:
- 遠方の応募者も気軽に面接できる
- 地方在住者の採用が可能に
- 面接のスケジュール調整が楽
デメリット:
- 「空気感」が伝わりにくい
- 応募者の本音が見えにくい
そして、最も大きな課題は「入社後のオンボーディング」でした。
新入社員がリモートワークで入社すると、「誰に何を聞けばいいかわからない」状態になります。オフィスなら、隣の先輩に気軽に質問できました。でも、リモートでは、チャットで話しかけるハードルが高い。
「孤独な新人」問題が、多くの企業で顕在化しました。
先輩の背中を見て学ぶ、先輩の電話対応を聞いて学ぶ──そんな「暗黙知の継承」が、リモートでは難しくなったのです。
(職場)文化──「当たり前」が一夜で変わり、そして揺り戻した
出社という「常識」の崩壊
「会社に行かなくても仕事はできる」
コロナ禍の3年間で、私たちは身をもってそれを実証しました。
片道1時間の通勤時間が、自分の時間になりました。朝の30分、夜の30分──その1時間で、運動したり、勉強したり、家族と過ごしたり。
「出社する意味」が、問い直されました。
オフィスの再定義
出社する人が減ると、オフィスの意味も変わります。
多くの企業が、オフィススペースを縮小しました。固定席をなくし、フリーアドレス化を進めました。
オフィスは「毎日行く場所」から「必要なときに集まる場所」へ。
- 集中作業は自宅で
- 打ち合わせ、ブレストはオフィスで
- 雑談、偶然の出会いもオフィスで

オフィスは「毎日行く場所」から
「必要なときに集まる場所」へ
- 集中作業は自宅で
- 打ち合わせ、ブレストはオフィスで
- 雑談、偶然の出会いもオフィスで
一方で、「オフィスに行かないと、偶然の出会いがなくなる」という課題も指摘されました。廊下ですれ違った他部署の人との雑談から、新しいアイデアが生まれる
──そんな機会が失われます。
世代間ギャップの変化
コロナ禍は、世代間のデジタル格差を一気に縮めました。
2010年代、ベテラン世代は「苦手だから」と、新しいツールを避けることができました。でも、コロナ禍では、そうはいきません。
ZoomやTeamsを使えなければ、会議に参加できません。
ベテラン世代も、否応なくデジタルツールを習得しました。「苦手だから」では済まされない時代になったのです。
逆に、若手の孤独感も顕在化しました。新入社員がリモートで入社すると、「教わる」機会が激減します。先輩の背中を見て学ぶ──そんな「暗黙知の継承」が難しくなりました。
新たな課題の顕在化
便利になった一方で、新しい問題も生まれました。
Web会議疲れ 1日中、画面を見続ける疲労感。常に「見られている」プレッシャー。
孤独感、メンタルヘルス 一人で自宅で働く孤独感。「お疲れ様」「今日暑いですね」──そんな他愛ない会話が、実は大事だったのです。
ハイブリッドワークの難しさ 「会議室に数人、リモートで数人」という状況になると、リモート参加者が疎外感を感じます。
2022年〜の揺り戻し
コロナ禍が落ち着いてくると、「出社回帰」の動きも出てきました。
「やっぱり、対面が一番」 「リモートだと、新人が育たない」
一部の企業では、「週5日出社」に戻すケースもありました。
ただし、完全に2019年には戻りませんでした。「毎日出社が当たり前」という空気は、もう戻らなかったのです。
多くの企業で、「週3出社」「コアタイムなしのフレックス」など、柔軟な働き方が定着していきました。
ツールは整った。プロセスも変わった。でも、文化はまだ「これから」。リモートとオフィス、デジタルとアナログ。その最適なバランスを、私たちはまだ探している途中なのです。
振り返って見えること
1. 変化は「突然」やってくる
10年かけて議論してきたことが、3ヶ月で実現しました。
「準備ができてから」では遅い。完璧な準備などありません。
2009年の新型インフルエンザ、2011年の東日本大震災──この2つの経験から学んだ企業が、2020年に対応できました。でも、完璧な準備があったわけではありません。
不完全なまま、走りながら整えました。それでも、なんとかなりました。
2. 「できない理由」の多くは思い込みだった
「ハンコがないと契約できない」 「対面じゃないと信頼関係は築けない」 「オフィスに行かないと仕事は回らない」
そう信じていました。でも、実際にやってみると、違いました。
ハンコがなくても契約は結べた。対面じゃなくても信頼関係は築けた。オフィスに行かなくても仕事は回った。
「できない理由」の多くは、単なる思い込みだったのです。
大事なのは、「何が本当に必要で、何が慣習に過ぎないのか」を見極めることでした。
3. 「元には戻らない」けれど「完全に変わった」わけでもない
2022年以降、出社回帰の動きもありました。でも、2019年には戻れません。
一方で、「完全リモート」が最適解でもありません。
多くの企業が、「ハイブリッド」という新しい常態に落ち着きました。週に数日は出社、残りは在宅。
その最適なバランスは、企業によって、チームによって、個人によって違います。
正解はありません。私たちは今も、最適なバランスを探り続けています。
あなたの職場では、何が変わり、何が変わらなかったでしょうか?
そして、何を残し、何を変えていくべきでしょうか?
次回予告
そして、2023年。新たな波が押し寄せます。
「ChatGPT使ってみた?」
2022年末、そんな会話がオフィスで交わされ始めました。
コロナ禍が「働く場所」を変えたなら、
生成AIは「働き方そのもの」を変えようとしています。
議事録作成、資料の要約、アイデア出し──
AIが数秒でやってくれる時代。
生成AIが拓く、新しい働き方の可能性を探ります。