Future Series 第6回: 変わる役割、変わらない役割 – リーダーシップの新しい形
はじめに – 前回の振り返り
前回の記事では、台湾のvTaiwanとPolisの成功事例を見てきました。対立していたUber問題を、AIの力で共通点を見つけ、納得感のある合意に導いた実例。Pluralityという新しい対話の技術が、分断を創造に変える可能性を示しています。
でも、一つ大きな疑問が残りませんか?
「こうしたツールを誰が使うの?そして、誰が最終的に決めるの?」
「グリーン社会だから決断する人はいらない」の誤解
最近、こんな声をよく耳にします。
「これからはフラットな社会だから、決断する人なんていらないんでしょ?」 「グリーン社会って、みんなで決めるから、政治家も経営者もリーダーも不要になるよね」 「AIが判断してくれるなら、誰かが決断する必要はないよね」
でも実際は、多くの組織で同じパターンの混乱が起きています。
「民主的に運営しよう」「フラットな関係でやろう」と決めた後、何も決まらなくなる。イベントの日程も予算配分も、誰も決めないから前に進まない。誰かが「じゃあこうしましょう」と提案すると、「それって民主的じゃないですよね」と指摘される。「じゃあどうやって決めるの?」と聞くと、「みんなで決めましょう」という答えが返ってくる。でも結局、誰も決断しない。
企業でも、NPOでも、地域コミュニティでも、政治の現場でも。グリーン社会への移行期に、同じパターンが繰り返されています。「決断を下すリーダー」の役割が曖昧になってしまっているのです。
現実に起きていること
グリーン社会への移行で、実際に何が起きているのでしょうか。
第3回で見たように、ダイバーシティが進むと考慮すべき情報が爆発的に増えます。多様なステークホルダーの意見、環境への影響、文化や宗教の違い、データ分析の結果…一人では、もはや全てを把握しきれません。
でも、情報を集めて、意見を聞いて、分析して…最終的には、誰かが決断しなければなりません。「みんなで決める」といっても、最終的に「ではこれでいきましょう」と言う人が必要です。そして、うまくいかなかった時に責任を取る人も必要です。

情報を集めて、意見を聞いて、分析して…
最終的には、誰かが決断しなければなりません
「みんなで決める」といっても、
最終的に「ではこれでいきましょう」と言う人が必要です。
そして、うまくいかなかった時に責任を取る人も必要です。
これは企業でも、NPOでも、地域コミュニティでも、政治の場でも同じです。
さらに現代では、「なぜそう決めたか」を説明できる必要があります。第5回で見たように、AIに透明性が求められるのと同じように、人間の意思決定にも透明性が求められるのです。
変わる役割、変わらない役割
ここで重要なのは、リーダーの役割は「消える」のではなく、「変わる」ということです。
オレンジ時代のリーダーは、トップダウンで指示を出し、一人で判断し、管理・監督することが仕事でした。「従わせる」ことが求められていました。企業でも、地域でも、政治でも同じです。
グリーン時代のリーダーはどう変わるのか。対話を促進し、判断材料を整理して決断に導き、環境を整えてメンバーの力を引き出す。「協創を生む」ことが仕事になります。
第4回で見たように、AIは大量の情報を整理し、より良い選択肢を増やしてくれます。でも、最終的に決めるのは人間(リーダー)です。リーダーの役割は、AIや多様なメンバー・市民の力を借りて、より良い判断を導き出すことに変わるのです。
でも、変わらないものもあります。
最終的な責任を取ること。方向性を示すこと。メンバーの成長を支援すること。これらは、AIには代替できない、人間のリーダーにしかできないことです。
「リーダーがいる」ことは「グリーンじゃない」のか?
ここで、重要な問いが浮かびます。
「でも、リーダーがいるって、結局は従来の縦社会と同じでは?グリーン社会って、そういう上下関係をなくすことじゃないの?」
この疑問に答えるために、第2回で紹介した「強い部活動」の例を思い出してください。
野球部で全国大会を目指す。そこには部長(キャプテン)というリーダーがいます。部長は日々の練習メニューを決め、試合の戦略を立て、部員をまとめる。もちろん顧問の先生もいますが、顧問は経験や専門知識を提供するアドバイザー。日々の決断を下すのは部長の役割です。
そして、部長の下には先輩後輩の関係があります。経験豊富な先輩が後輩に技術を教え、後輩は先輩をリスペクトしながら学ぶ。
これは理不尽な縦社会でしょうか?違います。
なぜなら、すべてが「全国大会出場」というパーパスに照らして透明に説明されるからです。
- なぜその部長がリーダーなのか?→「学年が上だから」ではなく、「チームをまとめる力がある」「技術がある」「パーパス達成に必要」だから
- なぜそのルールがあるのか?→「伝統だから」ではなく、「全国大会出場に必要」だから
- なぜ先輩の言うことを聞くのか?→「年上だから」ではなく、「経験がある」「学ぶべきことがある」から
**これがグリーン社会のリーダーシップです。**リーダーがいない社会ではなく、リーダーがいる「理由」が透明な社会。「役職」や「年齢」ではなく、「パーパス達成に必要」という明確な理由でリーダーが選ばれ、その理由を誰もが理解している社会。
顧問のようなアドバイザーは別にいるかもしれませんが、日々の決断を下し、責任を持ってチームを導くのは部長(リーダー)の役割です。これは企業でも、NPOでも、地域コミュニティでも、政治の場でも同じです。
AIはリーダーの「補助」であって「代わり」ではない
第4回と第5回で見てきたように、AIには素晴らしい可能性があります。大量の情報を整理し、パターンを見つけ、選択肢を示し、共通点を可視化する。
でも、AIはリーダーの「代わり」ではなく、「補助」です。
AIが整理した情報をもとに、最終的な判断を下すのは人間です。なぜなら、価値判断は人間がするものだからです。責任は人間が取り、パーパスを体現するのは人間で、チームの文脈を理解しているのも人間です。
**リーダーとAIの理想的な関係は、まるで優秀な参謀がいるようなもの。**参謀が情報を整理し、選択肢を示す。でも、最終的な決断は将軍(リーダー)が下す。そして、結果に責任を持つ。
決断する人の数は減っても、役割の重要性は変わらない
これからの社会では、「決断を下す人」の「数」は減るかもしれません。オレンジ時代の「管理・監督」が主な仕事だった中間管理職や、形式的な役職者は、必要性が薄れていくでしょう。
でも、本当の意味でのリーダーシップを発揮できる人の重要性は、むしろ高まっています。
複雑な情報を整理し、多様な意見をまとめ、透明なプロセスで決断を下し、コミュニティや組織を導く。そして、AIという新しいツールを適切に活用する。これができる人は、企業でも、NPOでも、地域コミュニティでも、政治の場でも、これからの時代に最も求められる存在です。
リーダーシップは「消える」のではなく「進化」する。トップダウンの指示から対話を促進する力へ。一人で判断から情報を統合し決断に導く力へ。管理・監督から環境を整え力を引き出す力へ。「従わせる」から「協創を生む」へ。

リーダーシップは
「消える」のではなく「進化」する
トップダウンの指示から対話を促進する力へ
一人で判断から情報を統合し決断に導く力へ
管理・監督から環境を整え力を引き出す力へ
「従わせる」から「協創を生む」へ
そして、AIという強力なツールを味方につけながら、最終的な判断と責任は人間が担う。NPOでも、企業でも、地域コミュニティでも、政治の場でも、これが、グリーン時代の新しいリーダーシップの姿です。
でも、リーダーだけが変わればいいのか?
ここまで読んで、また新しい疑問が浮かんできませんか?
「リーダーシップの形が変わるのは分かった。でも、リーダーだけが変われば社会は変わるの?メンバーや市民は今まで通りでいいの?」
これは鋭い指摘です。実は、グリーン社会への移行には、リーダーだけでなく、一人ひとりの変化も不可欠なのです。
リーダーが対話を促しても、メンバーが「指示待ち」のままでは機能しません。リーダーが透明な判断をしても、市民がそれを理解しようとしなければ意味がありません。NPOでも、企業でも、地域でも、政治でも同じです。
次回、第7回では、この「一人ひとりの役割」について考えていきます。リーダーもメンバーも、立場を超えて、新しい協創的な関わり方をどう見出していけばいいのか。グリーン社会を実現するための、最後のピースを一緒に探っていきましょう。
参考文献・関連資料
- フレデリック・ラルー著『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)
本記事は Future Series:これからの社会と共創の未来 の一部です。